『iSAMU』稽古風景 『iSAMU』稽古風景

日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれたその芸術家は、ボーダーを越えて、様々な人と関わりながら、自らのアイデンティティとどう向き合ったのか。演出家・宮本亜門は、イサム・ノグチ(1904~1988)の奥行きある人生を演劇で表現するにあたって、近道を選ばなかった。創作に着手したのは、2011年のこと。以来、準備公演を重ね、様々なアプローチを試みることで、作品に磨きをかけている。『iSAMU』と題したその舞台が、8月15日(木)にKAAT 神奈川芸術劇場 ホールでいよいよ開幕する。稽古場を取材した。

イサムを演じる窪塚洋介は、宮本とは初顔合わせ。だが、ふたりの間に一切の隔たりは感じられない。端的な指示で、演技が肉付けされ、台本の一行一行が生き生きと色づいていく。「亜門さんの人柄もあると思うんですけど、懐が深いというか、役者の経験や意見を取り入れながら、シーンに即したセリフが決まっていくんです。今の作業をたとえるなら、粘土をこねてる感じですね、みんなで」と窪塚。イサムの妻だった山口淑子を演じる美波も「そうした蓄積していったものを一度取り払って、また形を変えて作り直したりとか。彫刻を彫る作業にも似ていますね」と同意を示す。

簡単には答を求めない。深奥に分け入って試行錯誤を楽しむその光景は、まさに工房を想起させる。すべては、イサム・ノグチという存在の大きさによるものだろう。窪塚は言う。「多面的で、仕事熱心で、妥協を許さず、でもチャーミングだし、恋多き男で、ナイーブでもあった人。おこがましいとは思いますが、共鳴できる部分が多いんです。見ようと思う景色は同じかもしれないな、って。この出会いは、今後生きていくうえで自分の力になりますね」。

舞台は、母レオニー(ジュリー・ドレフュス)、妻・山口淑子(美波)、現代のNYで暮らす日本人女性(小島聖)という3人の女性を軸に展開する。3つの角度からイサムに光を当てて、その実像に迫ろうという趣向だ。美波が「舞台セットは白を基調にしていて、囲炉裏にも飛行機の機内にもホテルの一室にも、一瞬にして時代と場所が変わって面白いんです」と語るとおり、演出家は、視覚性の追求にも余念がない。紆余曲折を経てたどり着いた最善の表現は、まもなく劇場でその全貌を現す。

『iSAMU』は、8月15日(木)から18日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場 ホール、8月21日(水)から27日(火)まで東京・PARCO劇場、8月30日(金)に香川・サンポートホール高松 3階 大ホールにて上演。チケット発売中。