松江哲明監督

新たなドキュメンタリー表現を追求し続ける松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ』のDVDが8月2日に発売された。同日にはファン待望といっていい『ライブテープ』『トーキョードリフター』のレンタルリリースもスタート。3作品を同日に一挙リリースした松江監督に話を聞いた。

交通事故で負った記憶障害に苦しみながら、アーティストとして奇跡の復活を果たした木管楽器“ディジュリドゥ”の奏者GOMA。『フラッシュバックメモリーズ』は、彼のその圧巻のパフォーマンスと肖像をスタジオライブと過去の映像を交え映し出した。劇場公開を経た今、松江監督はこう振り返る。「記憶がリセットされてしまうGOMAさんにとって、いつでも自分の存在を確認できる大切なアルバムのような作品になればと何よりも思っていました。最終的にGOMAさんからも多くの観客の皆さんからもこの作品が“今を生きる力になっている”といった主旨の言葉をいただけて、ホッとしています」。

また、昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門で観客賞を受賞するなど、本作は国内外で高い評価を受け、日本初の3Dドキュメンタリー映画としても大きな話題を呼んだ。「苦労はありますけど(笑)、低予算のインディペンデントでも3Dはできる。それが評価されたことは光栄で。ただ、本作の後、目立った3D作品が日本から出ていないのが残念。僕自身は3Dに大きな可能性を感じている。もっと、多くの作り手がトライして、いろんな3D映画が日本から生まれてほしい」。

今回同日リリースされた3作品を改めて観て思うのは、作中に確実に存在する“ライブ感”。すべてが、人間の五感を揺り動かすような“体感”作品になっていることかもしれない。これに対し松江監督は「その日、その場で同じ空気を吸い、同じ時間を共有する。音楽におけるライブのような特別な体験になる作品を目指したところが確かにこの3作品にはあります」と明かす。

現在はプロデュース作品を2つほど進行中とのこと。もしや「監督は休業?」と聞くと「インディペンデント映画において、監督としていろいろな意味でやり切ったところがある。だから、監督としては次のステップに進みたい。ただ、インディペンデント映画は好きなので何らかの形で関わっていくつもり」と笑顔で語ってくれた。

ドキュメンタリー映画の新たな可能性を切り開いてきた彼の作品をまだ未体験の人は、この機会にぜひ見てほしい。

『フラッシュバックメモリーズ』
DVD 8月2日発売

取材・文・写真:水上賢治