上田誠  撮影:源 賀津己 上田誠  撮影:源 賀津己

常に話題性の高い作品を発表し続ける劇団・ヨーロッパ企画。京都を拠点に活動する彼らは、2年前から「企画性コメディ」と銘打ち本公演を行っている。2011年の移動コメディ『ロベルトの操縦』、翌年の漂流コメディ『月とスイートスポット』に続く今回の『建てましにつぐ建てましポルカ』に冠されたジャンル「迷路コメディ」とは一体……? 代表の上田誠に訊いた。

ヨーロッパ企画『建てましにつぐ建てましポルカ』チケット情報

「舞台って、大きなひとつの空間というイメージがありますよね。でもそこに壁が一枚あるだけで空間が区切られて、向こう側で何が行われているかはわからない。そういう状況って今まで舞台であまり描かれていないんじゃないかと思ったんです」そう語る上田は、「たとえば工場の芝居で、そこに勤めている人の人間関係ではなく、製造ラインをがっちり描く」性分のつくり手。

「前2作が広めの空間に人やモノがポツポツある芝居だったので、今回は高密度の空間を役者がウロウロする作品をやりたくなった。でも、舞台が区切られれば区切られるほど制約が増えて演技が難しくなるんですよね」一見困ったように話しながらも、彼はどうやらその制約を楽しんでいるようだ。

「たとえば前々作『ロベルトの操縦』は乗り物が延々移動する話だったから、一度そこから降りた役者は二度と出られない(笑)。でも、そういう制限のある舞台に大の大人が総力を挙げて取り組んでいるという力の使いどころが、僕はすごく好きなんです」

企画性コメディを謳い始めたとき、上田は「これを一生続ける」という確信を得たのだという。「もちろん情感や劇性も大切だけれど、それよりも企画性とか手法が中心に据えられた、ばかばかしい思い切りのある舞台に心惹かれるとはっきり気づいた。それからは、時代性を反映することよりも、ワクワクする企画を実現していこうという思いが強くなりました」

しかし、誰も手掛けていないジャンルを開拓するのは不安なもの。「たとえば台詞や、その奥にある感情については演劇の世界に語る言葉がある。一方で『迷路が面白い!』ということを舞台に乗せた時、それが演劇的であるかどうかは誰もわからない。だから、ついつい人間関係や個々の感情を書き込んでしまいたくなるんです。でも、本当にやりたいのはそこじゃなくて、舞台上の迷路を人がウロウロすること(笑)。それを忘れずに作りたいと思います」

舞台上にそりたつ壁という制限を彼らがどのように乗り越えるのか。どのような方法であっても、それは観客にとってかつてない演劇体験となるに違いない。9月18日(水)から26日(木)まで東京・本多劇場、9月28(土)・29日(日)大阪・シアターBRAVA!ほか、滋賀、京都、愛知、広島、福岡でも公演。いずれもチケット発売中。

取材・文:釣木文恵