『羊の木』上映中 © 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

「がきデカ」の山上たつひこと「ぼのぼの」のいがらしみきおという、日本ギャグ漫画界のレジェンドふたりが原作と作画でタッグを組んだ衝撃のコミックを、『桐島、部活やめるってよ』『美しい星』などの吉田大八監督が映画化した驚愕のヒューマン・サスペンス『羊の木』。

過疎化が進むさびれた港町を舞台にした本作は、地元の若き市役所職員・月末(錦戸亮)が、新たな職に就くためにその地に移住してきた6人の男女を受け入れるところから幕を開ける。

ところが、その6人はどこか挙動不審で、まとった空気も尋常ではない。

そう、彼らは自治体が身元引受人となり、刑期を大幅に縮小されて仮釈放された元受刑者たちだったのだ。

条件は10年間の定住。6人全員が殺人歴を持っているものの、刑務所のコスト削減と地方の過疎対策を兼ねた国家の極秘プロジェクトのため、決してそのことを住人に知られてはならない。

元受刑者同士を接触させてもいけない。月末はそんなただならぬ職務を任されて翻弄される日々を送るが、“異物”を受け入れた町の日常は少しずつ狂い始めて……。

映画はそんなハラハラするドラマをリアルに、緊張感たっぷりに描き出すが、そこで炙り出される働き手の不足や元受刑者の雇用先に関する問題は現実社会でも取り沙汰されている深刻なものだ。

そこで今回、映画『羊の木』の公開にちなんで、元受刑者を雇うという取り組みを実際に行っている東京の飲食店「新宿駆け込み餃子」の菊地優マネージャーをインタビュー。なぜ、元受刑者を雇う取り組みを始めたのか? 彼らの知られざる悩みや再スタートの実態についてお話を聞きました。

「新宿駆け込み餃子」撮影:熊谷仁男

今回お邪魔した「新宿駆け込み餃子」は日本でいちばん欲望と誘惑に満ち溢れた新宿歌舞伎町のど真ん中、TOHOシネマズ新宿のすぐ横にある365日無休、24時間営業の餃子のお店。

若い女性客からサラリーマンまで客層も幅広く、近年はアジアや欧米のお客さんも詰め掛けていて、話を聞かなければ元受刑者が働いているとは誰も思わない。

そんな一見普通の餃子屋さんがなぜ、思い切った取り組みを始めたのか? そこからお話をうかがうことにした。

元受刑者の方を受け入れることに抵抗はなかったのか?

――「新宿駆け込み餃子」さんが、元受刑者の方たちを雇われるようになった経緯から教えていただけますか?

「新宿駆け込み餃子」菊地優マネージャー

「飲食業界は年々人手不足の傾向にあるのですが、一方では“食”を通して人と繋がれる場でもあるので、そんな業態を元受刑者やニート、引きこもりの方の社会復帰のお手伝いに役立てられないかなと思って始めたのが最初です。

元受刑者は再犯率が高いんです。そこに歯止めをかけることで、社会貢献ができないかなと考えたわけですね。

『新宿駈け込み餃子』は今年の4月で3年目になるんですけど、元受刑者の方にはオープン当初からずっと入れ替わりで入ってもらっています」

――元受刑者の方を受け入れることに抵抗はなかったですか?

「僕自身はあまり抵抗はなかったですね。ただ、一般のアルバイトの方もいるので、最初はその人たちがどう思うのかがちょっと心配だったんですけど、みなさん意外と気にされなくて。

『あっ、そうなんですね。素晴らしい取り組みですね』と言ってくれる人がけっこう多いです」

――これまでに、元受刑者の方たちを何人採用されました?

「いままでに30人ぐらい雇用しました。いまは4人働いています」

元受刑者たちの採用条件

――元受刑者の方たちは、どのような形で募られたんですか?

「実は店の近くに『日本駆け込み寺』という(DVや金銭トラブル、ストーカー、家庭内暴力、虐待といった問題を抱えた人たちの相談を、年齢、性別、国や宗教を問わずに受ける)公益社団法人がありまして。

そこの代表が人生に一度つまづいた人たちの社会復帰支援を行う「一般社団法人 再チャレンジ支援機構」の理事をしているんです。

『再チャレンジ支援機構』が活動を一緒にやってくれる企業を探していて、そこに我が社が手を上げたという流れですね」

――では、元受刑者の方は『日本駆け込み寺』や『再チャレンジ機構』に相談をしに行って、そこで「駆け込み餃子」さんを紹介してもらうわけですね。

「相談に行かれた方を僕が面接して採用に至るケースもありますが、いまは刑務所に直接うかがって、仮出所の方と面接し、本気で社会復帰を目指していると思える満期の方には出所後にうちで働いてもらっています」

――『羊の木』という映画にもいろいろなタイプの元受刑者が出てきますが、誰もが採用されるわけではないですよね。どんな面接をされるんですか?

『羊の木』上映中 © 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

「僕がだいたい面接で聞くのは自分の人生設計で、『新宿駈け込み餃子』で働いて、3ヶ月後、半年後、1年後に自分がどうなっていたいのか? を明確に答えられる方を採用するケースが多いです。

罪によっては刑務所に十数年入っているので、お金を上手に使えない方もいるし、給料をもらってもすぐに使ってしまって支払いが追いつかない方もいるんですね。

どれだけ貯金して、生活にはどれぐらい必要なのかがある程度自分の中で計算できないと社会復帰は難しいので、そこは必ず聞くポイントです。

あとは、その人の体力的な面も考慮し、給料と照らし合わせながら、仕事の内容やスケジュールを細かく詰めていく感じですね」

――どんな罪を犯したのか? は聞かないんですか?

「もちろんすべて聞きます。僕から質問するというより、自分から最初に話してもらいますね」

――更生されているとはいえ、その犯罪の内容によっては流石に採用できない人もいるのでは?

「被害者が明確に分かっているような場合は非常に悩みますね。それに犯罪と言っても殺人から強姦までいろいろありますし、痴漢や薬物系のものは常習性があるので、お店の仕事だけでは更生しにくいという現実もあります。

性犯罪や薬物は半分病的なところもあるので、カウンセリングや回復施設できちんと治してもらってからでないと採用は難しい。

ケース・バイ・ケースですけれど、そういった点は慎重にお答えするようにしています」

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