廣原暁(ひろはら・さとる)監督

<ぴあフィルムフェスティバル>が未来を担う映画監督の作品をトータルプロデュースする、世界でも稀有な育成プロジェクト「PFFスカラシップ」。園子温や石井裕也といった現在第一線で活躍する監督たちの商業長編デビュー作を製作してきた同プロジェクトの最新作『HOMESICK』が公開される。今回の第22回作品で劇場デビューを果たすのは27歳の廣原暁監督だ。

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いよいよ劇場デビューとなる廣原監督だが、大学の卒業制作作品『世界グッドモーニング!!』がバンクーバー国際映画祭で新人賞グランプリに輝くなど、すでに実績十分。今後が期待される逸材だ。今回の作品は30歳の健二が主人公。無職になった彼が一家離散状態で今はひとりで暮らす実家も手放さなくてはならなくなり、途方に暮れるところからドラマは始まる。この設定について監督はこう明かす。「ある段階で気づいたんです。“これは居場所についての映画だ”と。震災を含め居場所について考えさせられる場面に遭遇することが多かったので、それが自然と反映された気がします」。

作品は、行くあてなどない健二が近所の子供3人組との出会いを機に新たな一歩を踏み出すまでを描く。印象深いのは傍から見るとダメ男にも映る健二への温かな眼差し。そこには生き辛い今の世の中を生きる人へのエールが読み取れる。さらに子供の存在も重要。監督は「子供は“今を生きる”ことの象徴。そのひたむきさには教えられることが多い。そのことを健二と子供の関係に託したところがある」と語る。

また、劇中の音楽はトクマルシューゴが担当。この映画の音楽は彼の楽曲以外考えられなかったという。「学生時代からファンで、脚本執筆中もずっとトクマルさんの曲を聴いていました。実はその曲に触発されて書いたシーンもあるんです」。今後について聞くと「優れた映画は国境を越える。そこは自分も目指したい」と視線は世界を見据える。その高い意識は世界に届き、『HOMESICK』も今年の釜山国際映画祭「A window on Asian cinema」部門への出品が先日決定した。

今回の公開ではレイトショーで『廣原暁監督特集』も開催。過去の長短編作品のほか、黒沢清監督の『ニンゲン合格』など監督が影響を受けた映画の上映もされる。「新人監督と呼ばれているうちはまだ半人前。ハリウッドをはじめとする世界のあらゆる映画と自分の作品が同等に渡り合う地点に早く立たなければ」と廣原監督。ポン・ジュノやジャ・ジャンクーも認めたその才能に触れてほしい。

『HOMESICK』
8月10日(土)よりオーディトリウム渋谷ほか全国順次ロードショー

取材・文・写真:水上賢治