2キャリアが販売するiPhone 5

iPhoneは、現在、ソフトバンクモバイルとKDDI(au)が販売している。家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、2011年10月発売の「iPhone 4S」、12年9月発売の「iPhone 5」とも、およそ6対4の比率で、auよりもソフトバンクモバイルのほうが多く売れている。単純な「安さ」だけではなく、「iPhone 5」の発売と同時にスタートしたLTEサービスの速さ・つながりやすさに対する評価、電波状況の改善、国内初代モデル「iPhone 3G」から取り扱ってきた信頼感など、さまざまな要因が積み重なった結果だろう。

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●キャリア別販売台数シェアは、6対4でソフトバンクモバイルが優勢

「iPhone 5」に限定した2013年7月までのキャリア別累計販売台数シェアは、ソフトバンクモバイルの55.4%に対し、auは44.6%。ソフトバンクモバイルは、auに比べて大容量の32GB・64GBモデルの割合がやや高く、逆にauは、16GBの割合がやや高い。このため、容量ごとにそれぞれキャリア別シェアを集計すると、ソフトバンクモバイルは、16GBでは53.1%、32GBでは57.0%、64GBでは59.3%と、大容量モデルほど優勢になる。

大容量モデルの購入者は、写真や動画、アプリなどを大量に保存するヘビーユーザーや、内蔵メモリの少ないAndroid搭載スマートフォンに不満を抱いてiPhoneに買い替えたユーザーが多いと推測される。32GB・64GBモデルでのソフトバンクモバイルのシェアの高さは、そうしたスマートフォン上級者といえる層にも支持されている現れといえるだろう。

●ソフトバンクの強みは幅広いLTEのエリア、つながりやすさも改善

iPhoneシリーズで初めてLTEに対応した「iPhone 5」は、キャリアによる機能面の差がほとんどなく、巷ではおもにネットワークと料金について比較された。前者に関しては、LTEのサービスエリアのカバー率(エリアの広さ)やつながりやすさ、通信の安定性などが焦点になった。

今年6月に開催した株主総会でソフトバンクモバイルは、近年のトラフィック対策の成果として、スマートフォンの音声接続率、パケット接続率とも、ドコモ・auを押さえて主要3キャリアNo.1となったと紹介。また、MMD研究所のユーザー調査の結果を引用し、「通信速度の遅さ」「パケ詰まり」「通信障害」に対する不満は、それぞれ主要3キャリアのうちもっとも低いことをアピールした。これは通信が集中する都市部を中心に、小セル化(※)などの大容量・高速通信のスマートフォン時代を見越した対策をとってきた結果であり、つながりやすさの改善がユーザーにも高く評価されていると主張する。

※小セル化…基地局を細かく設置することで、一つの基地局を利用するユーザーを少なくしてトラフィックを分散させるネットワーク構築のこと(参考:電波改善の取り組み 小セル化)

また、ソフトバンクモバイルは、7月18日、「バリバリバンバンキャンペーン」の一環として、MNPに限って、電波状況に満足できなかった場合は返品できるキャンペーンを開始した。かつてユーザーから「つながりにくい」と批判され、今もネガティブなイメージが残る電波状況に対する自信の表れといえるだろう。

KDDIは、LTEのサービスエリアの誤表記と4月・5月に発生した通信障害の再発防止策を講じるとともに、LTEサービスのエリア拡大を進めている。エリアの広さは、「全国実人口カバー率92%」(2013年6月末現在)を公称するソフトバンクモバイルには及ばないものの、一部地域で下り最大100Mbpsのサービスを開始するなど、高速化に力を入れている。

スマートフォンの購入を検討している既存ユーザー向けには、「iPhone 5」を含む指定のスマートフォン購入後、使いこなしなどに不都合が生じた場合、スマートフォンを返品して新しい携帯電話に交換できる「スマホデビューキャンペーン」を7月23日から実施している。こちらは電波状況ではなく、従来型携帯電話とは異なるスマートフォンの使い勝手に対するフォロー施策だ。

●MNPも機種変更も優遇するソフトバンク、固定回線とのセット割引をウリにするau

基本使用料2年間無料(MNP限定)や不要になった旧機種の下取りなど、ソフトバンクモバイルとauは、競い合うように、さまざまなキャンペーン・割引プログラムを展開している。現在実施中の各種キャンペーンを適用すると、MNPの場合、auよりも、ソフトバンクモバイルのほうが2年間で2万1000円、ひと月あたりに換算すると875円安い。auは、月額980円の基本使用料が2年間無料になる「auにかえる割」しか適用されないが、ソフトバンクモバイルは、月額980円の基本使用料が2年間無料になる「バンバンのりかえ割」と、2万1000円割り引く「のりかえサポート」の両方が適用されるからだ。

機種変更の場合、ソフトバンクモバイルは、最大1年間、パケット定額料が1050円割引になる「かいかえ割」が適用されるが、auには同様の割引はない。MNPに比べると金額は少ないが、機種変更でも割り引き、優遇している。この機種変更向けキャンペーンの有無が、販売台数の差に少なからず影響していると思われる。

一方、マルチデバイス・マルチネットワーク・マルチユースの「3M戦略」を掲げるauは、指定の固定通信サービスとのセット割引「auスマートバリュー」や「auスマートパス」が好評という。「auスマートバリュー」は、提携事業者が多いので利用しやすく、料金面での最大の強みになっている。

●2キャリア体制はまもなく3年目に突入 ネットワーク品質と料金が鍵を握る

まもなく「iPhone 4S」の発売から2年を迎える。新モデルが発売されればヒットはほぼ確実のiPhoneをめぐるキャリア間のシェア争いは、3年目に入って、まずは、既存のiPhoneユーザーの機種変更が中心になると予想される。当然、料金面での優遇が大きいMNPも視野に入るだろう。これまで以上にネットワークと料金の差がシビアに比較され、電波状況に満足できないユーザーによる「乗り替え」が活発になるかもしれない。(BCN・嵯峨野 芙美)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。