『パシフィック・リム』 (c)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND LEGENDARY PICTURES FUNDING.LCC

雨に煙る夜の街。その漆黒の空間を切り裂くように、怪獣の咆哮がこだまする。人類の危機に立ち上がるのは、われらがロボットだ! 頼む、僕らの未来を守ってくれ! かつて子ども時代に触れた、そんな原初的興奮を、そのまま映画にしてしまったギレルモ・デル・トロ監督。通常のハリウッド作品では、そのスケールが大きくなればなるほど外野からのさまざまな要望や制限が生まれ、監督の意志とは裏腹な作品に行きつくケースもあるなか、『パシフィック・リム』は、デル・トロの欲望が貫かれた、極私的一作となった。それだけでも清々しいし、賞賛を贈りたくなってしまう。

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「日本の同世代が見たTV番組の70%を僕も見た。そして愛した」。ウルトラマンやウルトラセブン、鉄人28号、そして『ゴジラ』シリーズなどを挙げて、本作が日本の特撮モノやアニメから生まれたことを語るデル・トロ。たしかに登場する“KAIJU”たちはCGにもかかわらず、着ぐるみ風のテイストが漂っており、ある世代の観客はノスタルジーをくすぐられるだろう。そしてそんな郷愁とは無縁の観客にとっても、KAIJUとイェーガー(人間側の巨大ロボット)のガチなぶつかり合いと、イェーガー内部でパイロットたちが肉体の限界に挑む動きをシンクロさせた映像の怒濤のダイナミズムに、自然とアドレナリンが上がるはずだ。このあたりの編集のうまさには、ただのオタク監督ではない、職人の真骨頂が発揮される。そして他の3D大作の2倍以上の時間をかけたという3D映像の効果も、アドレナリン上昇を加速させていく。

やけに夜のシーンが多かったり、もっと引きのカメラで戦いを観たかった……などという不満も些細なもの。ここまで日本文化に敬意を捧げたデル・トロに素直に感謝を表するべきだろう。劇中で監督の分身といえるキャラクターは、KAIJUにとりつかれた科学者ニュートだが、彼が意味もなくメガネを落とし、「メガネ、メガネ」と探すのは、日本の有名アニメ、あるいは漫才ネタを参考にした? などと、おそらくデル・トロの意識外のオマージュが立ち現れるのも、日本カルチャーへの過剰な愛が生んだ奇跡なのである。

『パシフィック・リム』
公開中

文:斉藤博昭