デボラ・フランソワ

1950年代のフランスを舞台に、タイプライター早打ち大会で優勝を目指すヒロインの奮闘を描く『タイピスト!』。その公開を前に来日を果たした若手女優のデボラ・フランソワが、自由を求めるヒロインの姿を観て闘争本能を呼び覚ましてほしいと訴えた。

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当時実際に一大ブームになったタイプライター早打ち大会を題材に、仕事に恋愛に全力投球したい主人公ローズ・バンフィル(フランソワ)のサクセス・ストーリーを、あたかもスポーツ映画のようなカタルシスを得る感動ドラマに仕立てた痛快な一作だ。とても興味深く映画的な題材だが、フランソワ自身は今回初めて知って衝撃を受けたという。「早打ち大会の存在は全然知らなかったわ。脚本が面白すぎたので監督の創作だろうと思ったけれど、後で30~40年続いた歴史を聞いて、もっと驚いたわ(笑)」と撮影前を回想する。

バンフィルの具体的なモデルはないものの、レジス・ロワンサル監督の母親や当時の女性一般の象徴だそうで、フランソワ自身も演じていく過程で自分自身と照らし合わせる作業を重ね、グッと共感度が上がる女性像に仕上げたそうだ。「実は、わたしもローズと似たような境遇だったの。ベルギーの小さな街を出て、女優になる夢を追って上京してね。タイプの早打ち練習じゃないけれど、女優になるために必死に努力して勉強したのよ」と想いを投影。その結果、一生懸命に人生を生きる、全女性たちの共感票を集めそうなヒロインに仕上がった。

しかし、フランソワは夢を追っている者だけではなく、夢さえ抱いていない人たちこそ本作を観てほしいという願いを明かす。改めて本作を日本に紹介する彼女は、「自由を手に入れるために戦うというテーマ」を問いかけたいという。「今の若い世代は自由を当たり前のように享受していて、夢や自由を戦って勝ち取っていく精神を失っている気がします。現実には両手を挙げて祝うほど自由じゃなく、また格差もあると思う。この映画を観て、自分の可能性について再考する機会にしてほしいです」と最後に熱いメッセージを寄せた。

『タイピスト!』
8月17日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

取材・文・写真:鴇田 崇