(左から)喜安浩平、吉田大八監督

映画界に一大センセーションを起こした『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督、脚本の喜安浩平がこの秋、演劇で新たな挑戦に身を投じる。吉田監督は本谷有希子の小説「ぬるい毒」を原作に初の舞台演出を、喜安はあの『ショーシャンクの空に』の舞台版(演出:河原雅彦)の脚本を担当する。

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映画監督デビュー作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』と同じく本谷の原作で初の舞台演出に臨む吉田監督。きっかけは「劇団、本谷有希子」のプロデューサーからの突然のオファー。なぜ演劇を? という問いに「そもそも僕はずっとCMを作ってきて、映画をやるようになったのもこの5~6年だし、自分を映画の人間と決めてるわけでもない。『舞台は経験がないから』と断るなら、『何で映画をやってるの?』という問いもはね返ってくるんですよ」と語る。だがその直前に冗談めかしてふと漏らした言葉――「ナンパみたいな思いつきのオファーに、はずみで『うん』と言ってしまった(笑)。そういうのがなんか良かったんだと思う」――この軽さの中にこそ本音が込められているような気がしてならない。

「本谷さんの作品はどれを選んでも大変。一番好きな作品なら後悔も少ないと思った」と「ぬるい毒」を選択したという。「舞台演目に選んだことと完全に矛盾するけど(笑)、本谷さんが初めて小説でしかできないことを書いた作品だと思う。僕の中では『彼女は完全に小説家になった』と思えた作品。だからこそ、あえて挑戦してみたいと思った」と“難物”への思いを明かす。

喜安は現在「ショーシャンクの空に」の脚本を執筆中。無実の罪で服役する主人公が自由を手に入れるため戦う姿を描き、映画版は日本でも広く愛されてきた名作。とてつもない比較対象があることを承知で舞台化に挑むが、「戦い方として正しいかよく分からないけど、映画にはできないこと――絵を切り取って見せるのではなく、そこに人がいるからこそ描けることをやる」と“戦術”の一端を明かす。

その一例が、主人公のアンディが独房に張るピンナップガールのポスターを使った描写。このポスターの女性たちを実際に舞台上に登場させるという。「河原さんが、『男だけで毎日真剣に刑務所の辛さについて考えるのはほんとに刑務所のようで辛いね、女性も出してみようか?』って言い出したんです(笑)。で、じゃあ原作に登場するピンナップガールを擬人化してみようと。原作は服役囚のレッドが過去を思い返す形で語られるんですが、彼のそれはあくまで憶測を含む。けどピンナップガールは、実際に独房の中のアンディを見てるはずだから、違う切り口で物語ることができて面白いと思ったんです。なかなか大変な作業ですが(苦笑)」。(【後編】へ続く)

舞台「ぬるい毒」
9月13日(金)~26日(木)
紀伊国屋ホール

舞台「ショーシャンクの空に」
11月2日(土)~10日(日)
サンシャイン劇場
※ほか地域の公演は公式サイト参照

取材・文・写真:黒豆直樹