熊切和嘉監督が『夏の終り』でこだわったこととは?

2013.8.29 17:54配信
熊切和嘉監督

当時40歳だった瀬戸内寂聴が自身の経験を綴り、1962年に発表した小説「夏の終り」。熊切和嘉監督はロングセラーを続けている原作のどこに最も惹かれ、映画化を決意したのか。31日(土)の公開を前に話を聞いた。

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妻子ある年上の作家と暮らしながら、かつて夫と子どもを捨てるほど愛し合った青年とも再び逢瀬を重ねるようになる知子。バランスを保ったり崩したりしながら続く3人の関係は、知子のなかに新しい気持ちを芽生えさせていく――。満島ひかり、小林薫、綾野剛という旬のキャストを得て、発売から50周年を迎えた恋愛小説を映画化した。

これまでも『海炭市叙景』や『BUNGO ~ささやかな欲望~ 見つめられる淑女たち』の『人妻』など文芸作品を手がけてきた熊切監督だが、ここまで奔放なヒロインをめぐる物語と向き合ったのは、はじめてのことかもしれない。「『海炭市叙景』のプロデューサーから原作を渡されて読んだのが、この小説との出会いです。文芸ものといってもエレガントすぎるものだとあまり興味はわかないのですが、知子という人は結構烈しい人じゃないですか。銭湯に行くふりをして風呂桶をカタカタいわせながら涼太のもとにみっともなく走っていく。そういうキャラクターがおもしろいと思いましたし、奇妙な3人の関係性も描いてみたいと思いました」。

音楽を手がけたジム・オルークは知子のような女性を苦手だと語っていたようだが、監督自身は「かわいい人だな」と感じたという。「そこでそんなこと言っちゃう!? みたいな発言も多くて(笑)。不器用で正直だから、近くで直接関わると大変な女性でしょうね。でも我欲をすべて捨てて、こういうわがままでむちゃくちゃな人のためだけに生きてみたい、と思ったりもします。現実問題では絶対に無理なんですけどね。完成作を観た男性の間でも、意見が真っ二つにわかれているみたいです」。

あくまでも欲望に忠実で、ときにはわがままな振る舞いをする知子。けれども染色の仕事をする彼女の横顔や、作家の妻と電話で話すときに映る藍色に染まった指先は厳かな美しさに満ちていて、そこには自分の足で立とうとする女の人の覚悟のようなものが感じられる。知子が染色をするシーンは、この映画の核ともいえるものになった。「あそこをちゃんと描かないと、ただのだらしない女と思われそうだったから、染色の過程は丁寧に撮りました。満島さんの指はとても特徴があって魅力的なのでもちろん吹き替えもしていませんし、無心で机に向かうその横顔は、もはや女優ではなく作家でした。仕事をしている知子を凛と美しく撮れたら、ほかのところは観る人がついてこられないくらい暴走しても成立するはず。そう信じて撮ったシーンです」。

『夏の終り』
8月31日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー

取材・文:細谷美香

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