松尾スズキが描く、“家族”という名の血のつながりを巡る悲喜劇

2013.8.30 10:50配信
M&Oplaysプロデュース『悪霊-下女の恋』  撮影:引地信彦 M&Oplaysプロデュース『悪霊-下女の恋』  撮影:引地信彦

松尾スズキ作・演出の舞台『悪霊―下女の恋―』が、1997年の初演、2001年の再演以来、12年ぶりに上演。8月29日、東京・本多劇場で幕を開けた。今回、広岡由里子以外のキャストを一新。ナイロン100℃の三宅弘城、賀来賢人、さらに大人計画の平岩紙が出演する。

舞台『悪霊-下女の恋』チケット情報

タケヒコ(三宅)とハチマン(賀来)はお笑い芸人。売れない時代が長く続いたが、ついにふたりのレギュラー番組が決定する。その収録前日。タケヒコが母・キメ(広岡)とふたり暮らしをしているウネハラ家に、ハチマンとタケヒコの婚約者であるナミエ(平岩)がやって来る。ナミエの出現により微妙なズレが生じ始めた母と子、そして友人同士。やがて不幸な事故が、ウネハラ家を襲い……。

血のつながりを巡る悲喜劇である。登場する4人の底にうごめく、さまざまな負の感情。お互いに思うことはあれども、それを口に出すことはない。そんなドロドロの家族ドラマでありながら、決して重々しくならないのは、やはり松尾が随所に盛り込んだ“笑い”にある。そして人は、本当にひどい、どうしようもない状況に陥った時にこそ、笑ってしまうものである。

意外にも松尾作品への参加は初という三宅は、グッと押さえた印象。近年“いい人”という役どころが多かったが、本作ではハチマンに対する嫉妬、母へのマザコン的愛、かつての同級生・井上との奇妙な関係性など、屈折した嫌味な男をじっくりと見せる。一方、常にテンション高く、場を盛り上げようとするのは、賀来演じるハチマン。それがかわいくもあり、またズルくもあるという人物だが、賀来はそのバランス感覚が非常にいい。観客を惹きつける華もあり、本作を通し俳優として大きく成長を遂げた。

ナミエ役の平岩が見せたのは、女性が持つ優しさ、エロさ、狡猾さ、すべてを内包したようなキャラクター。しかも笑いどころもしっかり押さえ、平岩という女優の底力を見せつけた。そして母のキメと家政婦のホキの2役を演じたのは、初演、再演に引き続き広岡。広岡にしか出せない空気感、そしてある種の不気味さは、『悪霊』という作品そのもの。そして彼女の美声とダンス(?)も、やはり本作に欠かせない要素のようである。

初演から16年を数えたが、作品が色褪せたという印象はまったく受けない。その理由のひとつは、かたちはいびつであれ、“家族”という普遍的な題材を扱っている点。そして改めて松尾脚本の面白さに唸らされた、贅沢であっという間の2時間10分であった。

9月16日(月・祝)まで東京・本多劇場にて。その後、大坂、愛知、山口、福岡でも公演。 チケット発売中。

取材・文:野上瑠美子

いま人気の動画

     

人気記事ランキング