『あまちゃん』サントラを贅沢に作ることができた理由とは?

――そうした中、ミュージシャンのあり方はどう変わっていくでしょうか?

小野島:例えば、欧米で広がっている音楽ストリーミング配信サービス『Spotify』は、広告さえ我慢すればほとんど無料で聴き放題。リスナーからしたら、こんなにありがたいサービスはありません。しかし、ミュージシャンの側からすると、CDを売ることに比べて遥かに実入りが少なくなるのは当然です。

これまでは、ミュージシャンの活動の主軸は「楽曲を作り、レコードを出して、それを売るためにツアーをする」というものでしたが、それが逆転せざるを得なくなる。実際、かなり名前の知れた大物でも、CDの売り上げだけでは食べていけなくなっています。

――「音楽の王道はライブなのだからそれでいい」という考え方もありますが、レコーディング技術とともに発達してきた音楽があることを考えると、難しいところです。

小野島:そうですね。例えば、スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンが「もうレコードでは食べていけない」と言っています。レコーディング芸術の極致のような作品を発表してきた彼がそういうのだから、もうどうしようもない状況なのでしょう。よりインドアなエレクトロニック系のミュージシャンであればなおさらです。

そもそも「レコードはライブのための予習用でしかない」という考え方のミュージシャンは、昔から一定数います。しかし、レコーディング作品を作ることに全力を傾注してきたミュージシャンたちは、大なり小なり考え方を変えざるをえないでしょう。同時に最近では、DAW(Digital Audio Workstation)の発達もあり、レコーディングにかける平均費用が大きく減少しています。その影響も小さくない。

――そのことは、レコーディング作品の質にも影響を与えるでしょうか?

小野島:にわかに判断することはできませんが、バンドものには影響が出るでしょう。テクノであれば、四畳半一間のアパートでもかなりのクオリティのものができる。しかし、バンドものだけは、広い部屋でドカドカと音を鳴らして録らないと話になりません。

ドラマ『あまちゃん』の音楽を担当した大友良英さんは、「NHKの大きなスタジオを自由に使えたからこそ、あれだけ贅沢なサウンドが録れたんだ」と語っています。外部のスタジオを使う民放のドラマでは、制作費の関係から、生のビッグバンドを起用し、予算を気にせず時間をたっぷりかけて制作するのは難しいのです。

「CDは数あるグッズのひとつに過ぎない」という状況が生まれている

――『Spotify』はミュージシャンの実入りが少ない、というお話もありました。CDの売上高が高い収益を生んだ時代には、そこで得られたお金を若手ミュージシャンに再配分・投資することができていましたが、それが崩壊するとなると、音楽産業を支えてきた新人育成システムも立ち行かなくなる可能性が高いですね。

小野島:トム・ヨークがそのことに対する危惧を表明していますね。逆に言うと、「あのアーティストが売れたから、その利益を有望な新人に突っ込んでしまえ」という前時代的な“どんぶり勘定”がなくなるので、ミュージシャンが「自分たちがこれだけ売ったのだから、その分の利益をくれ」と主張して、正しい利益配分が行われるようになれば素晴らしいと思います。

業界全体で動くお金が減っていくなら、中間業者を介さず、リスナーと直接つながることで利益を確保しよう、という方向に進むのが当然の流れ。実際、ツアーでグッズを売ることが収益の柱になり、「CDは数あるグッズのひとつに過ぎない」という状況が生まれています。「CDはデジタルコピーできるが、Tシャツはコピーできないから買う」という話もよく聞くところです。