2014年6月にSIMフリースマートフォン(スマホ)の国内市場に参入したファーウェイは、わずか2年半で全国の主要家電量販店・ネットショップの実売データを集計した「BCNランキング」の年間販売台数シェアNo.1を獲得した。デバイス事業のトップを務める呉波プレジデントに、18年の市場の予測と、第5世代移動通信(5G)時代のスマホ事業について聞いた。


取材・文/細田 立圭志、写真/瀬之口 寿一

SIMフリースマホ市場はさらに拡大する

――3大キャリアで初となる、auで「HUAWEI nova 2」の取り扱いを開始して、SIMフリーだけではない領域に踏み込みました。

呉 キャリア向けビジネスでは「郷に入れば郷に従え」を原則に、市場のルールを守っていきたいです。市場の9割を占めるキャリア向けビジネスで競争するプレイヤーは、SIMフリー以上に多いからです。ただ、キャリア市場で成功したメーカーが、SIMフリー市場に参入すると環境に適応できないところがあるのに対し、われわれSIMフリースマホメーカーがキャリア市場に参入したときに同じ状況になるかは、今後、注目すべきところです。何があっても簡単にはあきらめません。生き残ることができれば、チャンスは訪れてくるでしょう。

――一方のSIMフリーの市場は総務省の後押しがありましたが、撤退するメーカーが出るなど不安定な部分もあります。

呉 日本のSIMフリースマホ市場は、さらに拡大するでしょう。すでに3つのチャネルを使った販売手法があります。ひとつはMVNO独自の販路を通じてSIMカードと端末を販売する手法で、もうひとつが、UQコミュニケーションズやワイモバイルなど、3大キャリアのサブブランドとして独自チャネルで販売する手法です。最後が家電量販店での販売です。14年と比べて販売チャネルは拡大していると同時に、競争が激しくなっています。競争があれば、全体のパイも大きくなります。国としても、さらにSIMフリーの施策を推進していくでしょう。

日本のスマホ市場は、グローバル市場と違ってハイエンドモデルの台数が多い逆三角形です。しかし、SIMフリーの市場が拡大すると、ひし形の市場になってきてミドルモデルが充実します。今後は、徐々にグローバルと同じような正三角形になるでしょう。スマホのコモディティ化は、さらに進むということです。

「kirin 970」のAI搭載は5G時代のヒント

――第5世代移動通信(5G)に向けた実証実験などの動きも加速しています。

呉 5Gになると、消費者が持っている端末が今のスマホの形状なのかということも考えなくてはいけません。これまでのモバイル端末の歴史を振り返ると、3年から5年に小さな変化が起き、10年ごとに大きな変化が起きています。iPhone Xも、iPhoneの誕生から10年がたっています。

5Gは、既存の考え方を覆すような大きな変化をもたらす通信技術です。日本、韓国、中国を含めて5Gへの投資はさらに拡大していきます。

――昨年の独IFAで発表した、スマホやタブレット端末向けの独自の新プロセッサ「Kirin 970」にAI(人工知能)を内蔵したようなエッジコンピューティングの発想は、5G時代のヒントになるのでしょうか。

呉 AIと5Gは両輪のように平行して発展する技術です。ファーウェイもかねてからAIについてはチップレベルの研究開発に力を入れています。クラウドは重要な要素ですが、こちらはコンシューマビジネスグループの管轄ではなく、クラウドビジネスユニットの担当領域なので詳細は話せません。

ただ、消費者が手にもって触れる製品についていえば、チップレベルでの5GとAIの研究開発はとても重要になってきます。中国では、5Gでの自動運転の実証実験はもちろん、無人ヘリコプターの自動運転の実証実験もスタートしています。これらは絵空事ではなく、比較的早い時期に実用化が可能になるでしょう。

今はスマホを介して人と人、人とモノの接続を可能にしていますが、5Gの時代になれば、モノとモノの接続がメインです。自動運転で走る車は、周囲の物体と情報のやり取りをします。なぜ4Gでは不可能かといえば、遅延してしまうからです。5Gでは遅延がほとんどなく、自動運転以外にも、もっと広い範囲での応用が可能になります。

例えば、スマート物干しがあります。外出しているときに雨や雪が降ったら、天気予報のデータとリンクした物干しが、自動で部屋に格納されるのです。ユーザーが指令せずに、物干しが判断して洗濯物を取り込むのです。

――日本でスマホ以外の新しいデバイスを扱っていく可能性はあるのでしょうか。

呉 ファーウェイの年間投資額は150億ドル以上で、これは世界で8位の額です。毎年、売上高の10%以上、16年は約15%を研究開発に投資しています。そのなかで、新領域として注目しているのがスマートホームです。今年1月に米国で開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、当社コンシューマー・ビジネス・グループのCEOを務めるリチャード・ユーが、スマートホームを紹介しました。

現在、18年に日本でスマートホームビジネスを展開するための準備を進めています。スマホだけとは限りません。ポイントは、家の中にある既存の家電製品をいかにインテリジェントなスマート家電にするかです。スマートホームを実現するために、すべての家電製品を買い替えるのは現実的ではありません。こうした先端技術への戦略的な投資は、今後も揺るがずに継続していきます。