新国立劇場演劇『OPUS/作品』稽古場より。段田安則  撮影:黒豆直樹 新国立劇場演劇『OPUS/作品』稽古場より。段田安則  撮影:黒豆直樹

新国立劇場にて30代の気鋭の演出家による新企画「Try・Angle -三人の演出家の視点-」がまもなく開幕する。幕開けを飾るのはニューヨークと東京を拠点に活躍する小川絵梨子の演出による日本初演の翻訳劇『OPUS(オーパス)/作品』。初日まで2週間を切った8月の某日、段田安則、相島一之、近藤芳正、加藤虎ノ介、伊勢佳世が揃った稽古場に潜入した。

新国立劇場演劇『OPUS/作品』チケット情報

ホワイトハウスでの演奏会を前に創設メンバーのひとりを解雇し、新たに女性奏者を迎えた弦楽四重奏団。本番に向けて練習を重ねるが各人の心に渦巻く嫉妬や思惑、秘密が徐々に露呈し……。

この日の夕方に予定されていた2回目となる通し稽古を前に重点的に繰り返されたのが演奏会直前の練習のシーン。前日の野球の試合の感想に始まり、互いの演奏ミスの指摘など一つ一つは小さいながら、ちょっとしたやりとりの積み重ねから、これまで表面化しなかったが楽団内に確かに存在していた亀裂、断層が露わになり爆発に至る。

壊れゆく楽団を象徴し、シニカルな掛け合いが魅力の本作の真骨頂とも言えるシーンとあって演出にも熱がこもる。小川は時に壇上に上がり、自身で演じながら何気ない会話や短い返答の中に込められるイラつきや不満のニュアンスを説明。ピリピリした気まずい空気を作り出していく。俳優陣が小川を囲み話し合う姿も見られた。

イライラを募らせていく第1ヴァイオリンのエリオット(段田)、そんな彼に噛みつく第2ヴァイオリンのアラン(相島)、何とか場をまとめようとするチェロのカール(近藤)、そんな彼らのやりとりに戸惑うヴィオラのグレイス(伊勢)。短いやり取りの中で、楽団の亀裂ばかりでなくそれぞれの個性をも浮かび上がってくる。

加藤演じる解雇された元メンバーのドリアンがどのように物語に関わってくるかも注目点。天才的な腕前ながらも過激すぎる言動から解雇され行方不明に至ったこの男が、再びメンバーの前に現れる。そこから物語が大きく展開されていく。

小川はここまでの3週間の稽古で確かな手応えを感じているよう。「元々は家族以上に密接だった楽団が崩れていく話」とあって、前提となる家族的な雰囲気の現場を企図したというが「みなさん、本当にプロフェッショナルで豊かな現場になっている」と満足そう。演奏会に向けて楽団が練習を重ねるさまは舞台の現場とも重なるが「“楽団”という言葉がよく出てきますが、みなさんよく“劇団”と言い間違えます(笑)」とか。

四方を客席に囲まれた舞台上にあるのは楽器やイスなど必要最低限のものばかり。まさに絶妙な会話こそが見どころ。果たして彼らが導き出す楽団の結末は?

公演は9月10日(火)から29日(日)まで新国立劇場 小劇場にて。チケットは発売中。

取材・文・撮影:黒豆直樹