Windows 8の「スタート」画面(左)。「デスクトップ」をクリック(タップ)すると、従来のデスクトップモードに切り替わる

ある日、家電量販店で、スタッフとお客さんのやりとりが聞こえてきて、その内容に頭を抱えてしまった。お客さんは、無線LANルータのことを「Wi-Fiルータ」と呼び、通信キャリアのスタッフジャンバーを着たスタッフは、自社のモバイルWi-Fiルータの契約を勧めていたからだ。かみ合わない会話をしばらく続けた後、スタッフは誤りに気づき、PC周辺機器コーナーに来店者を案内した。

これはひとごとではない。筆者も思い込みのために、買い物に失敗してしまったことがある。オンラインショップで衝動買いした「ミキサー」を使おうとしたとき、欲しかったのは果物・野菜をしぼって生ジュースを作る「ジューサー」だったことに気づいた。事前によく調べず、価格の安さに釣られてしまったのだ。

今回は、後から「しまった!」と後悔しないよう、二つのデジタル製品について「違い」をまとめた。

●「Windows 8」と「Windows RT」は、「使えるアプリ」が違う

厳密にいうとソフトウェアだが、似て非なるデジタル製品の筆頭として、マイクロソフトの新OS「Windows 8」と「Windows RT」を挙げたい。Windows RTは、マイクロソフト初の自社製タブレット端末「Surface RT」など数機種が、Windows 8は現在販売中のMac以外のパソコンほぼすべてと、一部のタブレット端末が搭載している。Windows 8はOS単体でも販売しているが、Windows RTはあらかじめ入っている「組込み」だけで、OS単体での販売はない。マイクロソフトは、日本時間の10月17日に、新機能の追加や改善を行った改良版「Windows 8.1」をリリースする予定。Windows 8から8.1へは、無償でアップデートできる。

技術的な要素を除くと、「Windows 8」と「Windows RT」の最大の違いは、使えるアプリの種類・インストール方法にある。Windows 8は、DVD/CDなどからインストールする従来のWindows用ソフト(デスクトップアプリ)と、OSに組み込まれた「Windows ストア」(画面表示上は「ストア」)から入手したアプリ(Windows ストア アプリ)の両方を利用できる「新旧併用型」だが、Windows RTは、Windows ストアから入手したアプリしか動作しない「新方式オンリー型」。Windows 8からアプリに関する下位互換性を省いたWindows RTは、シンプルでわかりやすい反面、現状では利用できるアプリが少なく、中途半端な印象がある。

iPhoneやiPad、iPodと連携し、音楽・動画・アプリなどを管理できるアップルのコンテンツ管理ソフト「iTunes」は、Windows RTでは利用できないが、Windows 8ではデスクトップアプリとして動作する。OSと一体化した「Windows ストア」の位置づけと、自社でもアプリ配信ストアを手がけるアップルの方針を考えると、「iTunes」がWindows 8/RTに最初から対応してWindows ストアで配信されるようになるとは考えにくく、少なくともWindows RTでは、今後もずっとiTunesは使えないと思っておいたほうがいいだろう。

同じSurfaceシリーズでも、OSにWindows 8を搭載した上位機種の「Surface Pro」は、通常のパソコンと同じように、デスクトップアプリをインストールして利用できる。「iTunes」をはじめとする従来のデスクトップアプリを使い続けるつもりなら、Windows RTを搭載した「Surface RT」は選択肢から外し、「Surface Pro」を含むWindows 8搭載パソコン・タブレット端末から選ぼう。

本体だけで3万9800円からという「Surface RT」の手軽さは、OSとプリインストールするオフィスソフトの違い(メーラーのOutlookがない)によるもの。Windows搭載パソコンの代わりとして使い倒すには、利用できるアプリや周辺機器などの制約が気になるが、パッケージ単体で買うと高くつくマイクロソフトのオフィスソフト(Word、Excel、PowerPoint)を手軽に使える専用タブレットとみなせば、コストパフォーマンスは高い。

●「モバイルWi-Fiルータ」と「無線LANルータ」は、「契約する回線」が違う

次の似て非なるデジタル製品は、最初の家電量販店での話にも出てきた「モバイルWi-Fiルータ」と「無線LANルータ」だ。「モバイルWi-Fiルータ」は、イー・モバイルの「Pocket WiFi」のヒットをきっかけに、いまやデータ通信端末の主流となった。一方の無線LANルータは、無線LAN親機、無線LANブロードバンドルータなどとも呼ばれるオーソドックスなPC周辺機器だ。

「モバイルWi-Fiルータ」と「無線LANルータ」は、「モバイル」を省略し、「無線LAN」をほぼ同じ意味の「Wi-Fi」に置き換えると、どちらも「Wi-Fiルータ」になってしまう。もともと名称が似ているうえに、スマートフォンをはじめとするさまざまな無線LAN対応機器をインターネットに接続するという用途・役割まで同じとなると、勘違いや言い間違いはやむを得ないのかもしれない。

モバイルWi-Fiルータは、通常、購入時にイー・モバイル、WiMAXなどの通信事業者と契約する必要があり、契約した通信事業者に毎月定額または従量課金で通信料金を支払う。本体は手のひらに収まるコンパクトサイズで、SIMカードを挿入して、カバンやバックなどに入れて持ち運んで使う。電源は内蔵バッテリで、バッテリが切れると使えない。通信回線は、LTEや3Gなどのモバイルデータ通信。携帯電話同様、サービスエリアの圏外や電波状況が悪い場合は、通信できなかったり、途中で途切れたりする。

一方、無線LANルータは、室内のコンセントにACアダプタを接続し、通常、据え置きのままで使う。利用できる場所は、無線LANの電波が届く範囲に限られる。別途、固定通信サービス提供会社・ISP(プロバイダ)と契約しなければ、インターネットにはつながらない。通信回線は、光ファイバー(FTTH)やCATVインターネット、ADSLなどの固定ブロードバンド回線で、回線の種類や混雑状況、無線LAN規格によって最大通信速度は異なるが、モバイルデータ通信に比べると安定している。

Wi-Fiを利用していないスマートフォンユーザーは、ネットワークのトラフィックの混雑緩和やデータ通信量の削減のために、自宅に無線LANルータを設置し、積極的にWi-Fiを利用するようにしよう。すでにFTTHなどの固定ブロードバンド回線を契約しているなら、追加費用は無線LANルータ本体だけだ。無線LANルータは、親機単体の場合、最も安いものなら3000円弱、より高速のIEEE802.11ac(Draft)対応機種でも1万円台で購入できる。購入しないで、通信事業者などが実施している有料・無料のレンタルサービスや無料プレゼントを利用してもいい。ノートPC、ゲーム機、デジタルカメラ、プリンタ、テレビなど、無線LAN対応機器は多く、エアコン、冷蔵庫などの生活家電にも広がっている。最新機器を連携させるスマートなデジタルライフに、無線LAN(Wi-Fi)は欠かせない。

自宅で固定ブロードバンド回線を契約していない場合などに、スマートフォンの購入と同時に、固定回線の代わりに「モバイルWi-Fiルータ」の購入・契約を勧めるケースがあるようだ。自宅でWi-Fiを利用するために必要な機器は、モバイルWi-Fiルータではなく、無線LANの親機になる「無線LANルータ」だ。両者の違いを認識して、不要なら断ろう。(BCN・嵯峨野 芙美)

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