表情をくるくる変えるチェシャー猫 表情をくるくる変えるチェシャー猫

1865年に刊行された世界的な人気児童小説『不思議の国のアリス』。1871年には続編『鏡の国のアリス』が発刊され、実に約160年にわたり愛され続けてきたアリスの冒険譚を、貴重な挿絵や派生した作品群を通して紐解く「アリス-へんてこりん、へんてこりんな世界-」が、あべのハルカス美術館にて開催中だ。

「アリス -へんてこりん、へんてこりんな世界-」チケット情報

英国ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)が企画した世界巡回展に、日本オリジナルの内容をプラスした同展。5章に分かれた展示は、第1章『アリスの誕生』から始まる。英国の博識家/数学者であるチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが知人の娘・アリスに語った創作話を、ルイス・キャロルの筆名で発刊。当時の構想メモやジョン・テニエルが描いた挿絵、ドジソンが撮影したアリスのポートレートなどで物語が生まれた往時へ旅することができる。2章『映画になったアリス』では、サイレント映画やお馴染みのディズニー作品、本展で日本初公開となったティム・バートン監督の映画『アリス・イン・ワンダーランド』のキャラクターデザインなど、書籍を飛び出して広がるアリスの世界を集約。さらに、サルバドール・ダリや草間彌生らさまざまなアーティストの作品から、カウンターカルチャーやドラッグカルチャーをも飲み込んだ新たなアリス像を知る3章のほか、舞台衣装やヴィヴィアン・ウエストウッドによるアンサンブルと、約300点もの作品や映像演出が集結する。

とりわけ目を引くのが、物語を象徴するシーンを具現化した独創的なインスタレーションだ。消えては浮かぶチェシャー猫、移りゆくマーブル模様が投影されたマッド・ハッターのお茶会。加えて、アリスの体が大きくなったり首が伸びたりする場面を立体的に体感できる造作も交え、脳内をアリス・ワールドに塗り替えられる不可思議なアート体験がもたらされる。

開催に先立って行われた内覧会には、本国V&Aの展示部門責任者、ダニエル・スレーターが登場。「本展は、ただアリスと彼女にまつわる遺産を紹介するものではありません。長く引き継がれる創造性、世代を超えて広がる影響力。ある人物の創造性が他の人物の創造性をどのように刺激するのか、そのプロセスを視認できるものでもあります」と語る。

さまざまな視点で描き出すアリスの物語は、鑑賞後に全く新しい創造の世界を開くことだろう。「アリス-へんてこりん、へんてこりんな世界-」は2023年3月5日(日)まで。

取材・文・撮影:後藤愛