吉田大八監督が、「舞台化不可能」と言われた小説で演出家デビュー

2013.9.17 13:40配信
劇団、本谷有希子(番外公演)『ぬるい毒』  撮影:田中亜紀 劇団、本谷有希子(番外公演)『ぬるい毒』  撮影:田中亜紀

劇団、本谷有希子の番外公演『ぬるい毒』が、9月13日、東京・紀伊國屋ホールで開幕した。今回劇団の主宰者である本谷有希子は原作のみを担い、映画『桐島、部活辞めるってよ』の吉田大八監督が脚本と初の舞台演出を手がけている。

劇団、本谷有希子(番外公演)『ぬるい毒』チケット情報

「わたしの全ては23歳で決まる」と信じ、切実に生きようとする熊田由理。19歳になったある夜、同級生と称する向伊という男から電話がかかってくる。向伊は嘘つきで誠意のかけらもない男だが、熊田はその嘘に魅了され、堕ちて行く。果たして23歳の熊田に待ち構えるものとは?

タイトルは『ぬるい毒』だが、そこはもちろん本谷作品。強烈な毒がたっぷりと内包されている。主人公の熊田は、いわゆる女に嫌われるタイプの女。事なかれ主義で、常に笑顔を絶やさない。一方の向伊は、“サイテー”という表現が実にしっくりくる男。熊田のことは、カモとしか思っていないのだろう。このようにふたりの上下関係は誰の目にも明らかなようで、実はそうではない。熊田の心の中の毒は、向伊に復讐するため、日に日に増幅していくのである。

そんな“女”という生き物の二面性を見事に演じ、強い印象を残したのは夏菜。連続テレビ小説『純と愛』でもその女優魂を見せつけた彼女だが、今回はその振り幅の広さに驚かされる。向伊を演じたのは、若手実力派の池松壮亮。向伊という男が発する気持ち悪さ、さらにどうしようもないほどの魅力を、自然と醸し出せる稀有な俳優と言えるだろう。また今回出色だったのは、劇団ロロの板橋駿谷。本作の登場人物の中で彼が振りまく真っ当な光は、ある種の違和感となり、観客の笑いを誘っていた。

本谷は本作について、「舞台化不可能な小説」と語っている。それを演出の吉田は、演劇と、映像と、小説を融合させた、新しいエンターテインメントに仕上げた。これはきっと本谷には出来なかったステージであろうし、そういった意味で今回の番外公演は成功を収めたと言える。

本番前には囲み取材が行われ、演出の吉田、夏菜、池松の3人が登壇。吉田は映像との違いについて、「毎日俳優さんたちが変わっていくのを見られるのは、新鮮だし楽しい」と語る。夏菜は自分のことを「イノシシのような猪突猛進タイプ(笑)」と分析し、熊田という役には今でも悩み中だと明かす。池松は終始言葉少なめだったが、「最初で最後の吉田監督の舞台になるかもしれないので、ぜひこの機会に観に来てください」とアピールは忘れなかった。

公演は、東京・紀伊國屋ホールにて9月26日(木)まで。チケット発売中。

取材・文:野上瑠美子

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