頭脳で戦う現代の仕置人 『怨み屋本舗』

●決めぜりふ 「しかるべく」

作者は栗原正尚。2000年から始まり、今なお第4シリーズが連載中という息の長い漫画だ。過去に何度かドラマ化もされている。

主人公は本名を隠し“怨み屋”と名乗る黒髪の美女。彼女が営む怨み屋の稼業は「多額の報酬と引き換えに、怨んだ相手を抹殺する」というもの。抹殺には2種類あり、社会的抹殺か実質的抹殺を依頼者が選べる。「放火で殺された家族と同じように、相手にも同じ苦しみを与えて焼き殺してほしい」など、えげつないオプションの指定も可能だ。

依頼されるミッションはどれも難易度が高いが、怨み屋本人のすぐれた能力と、彼女がひきいる情報屋・工作員たちのサポートで鮮やかに片づけていく。

基本的に相手を抹殺するためには手段を選ばない怨み屋だが、彼女の仕事には決められたルールがある。「正義感だけで依頼は受けない」「自分は直接手を下さず頭脳プレーで相手を抹殺する」「もし依頼人が裏切った場合、厳しいペナルティを与える」といったもの。

とりわけ頭脳プレーへのこだわりは見事で、ターゲットを徹底的に調べあげて弱点や性格を把握し、完璧な方法で抹殺してのける。本来まったく無関係だった2人のターゲットを誘導して殺し合わせ、同時に2つの依頼を片づけるエピソードなどは読んでいて鳥肌モノだった。

作中で主人公たちが利用する裏の手口――個人情報の売買ルート、盗聴盗撮デバイス、戸籍偽装、クローン携帯の作り方なども妙にリアル。これらを駆使して極悪人を追い詰めていく展開はカタルシスいっぱいだ。

また、作中でキャラクターの口を借りて語らせている「なぜこの日本では加害者ばかり手厚く保護されるのでしょうか?」「まじめに生きてる人間が損する社会はいつか破綻するぜ」といった言葉の重さには同意せざるをえない。これはおそらく作者の本音だろう。だからこそ“悪党を狩る悪党” 怨み屋の存在が光るのだ。

難点は復讐ターゲットとなる悪人を真性のクズとして徹底的に描写しているので、読者によっては強烈な不快感を催すところだろうか。『闇金ウシジマくん』に耐えられる人なら問題ないので、ぜひ読んでみてほしい。

 

オカルト要素が強めの復讐ファンタジー 『地獄少女』

●決めぜりふ 
「いっぺん死んでみる?」「この怨み 地獄へ流します」

漫画版の作画担当は永遠幸。少女漫画誌「なかよし」で2005年に連載が始まり、今年まで続いていた。ほぼ同時期に放送スタートされたアニメ版がおそらく一番有名で、こちらは第3期まで制作。ほかにはドラマ、ゲーム、小説、果てはパチンコ機種にまで広くメディアミックスされている。

主役を務めるのは閻魔あいと名乗る謎の美少女。依頼人が強い怨みを抱き、都市伝説を信じて「地獄通信」というウェブサイトに相手の名前を入力すると、目の前に閻魔あいが姿を現してワラ人形を渡す。この人形に巻かれた糸を解くことで契約成立となり、憎い相手はすぐさま地獄へ送られる。

この作品のユニークでおもしろいところは、依頼の代償がお金ではないこと。相手を確実に地獄へ送れる代わりに、依頼人も「死後は魂が地獄へ送られて永遠にさまよう」ことが事前に閻魔あいから告げられるのだ。だから依頼人はワラ人形を受け取りながら、ぎりぎりまで糸を解くか解かないか悩む。結局ほとんどの場合、たびかさなる理不尽な仕打ちに耐え切れず糸を解いてしまうのだが。

契約が成立すると「多くのペットを見殺しにした悪徳獣医は、みずからも手術台に載せられ麻酔なしの手術を受けさせられる」といった具合に、ターゲットは自分の悪事に見合った苦痛を体験したあとで地獄へ流される。

ただしこの作品では、なかば逆恨みや誤解で地獄に行かされる人もいて「この相手は本当にそれほど悪人だったのだろうか?」と思わされることもある。また、相手が極悪人だったとして「依頼人が自分の地獄行きを代償にしてまで裁くほど、この悪党に価値はあったのだろうか?」という感想を抱くことも。毎回ほぼストーリー構成が決まった水戸黄門のような作りだが、“倍返し”が正しかったのかどうかを含め、いろいろ考えさせられる深い話である。

なお、漫画とアニメは同じ原案であっても違いが大きく、今から入門するならアニメ版がお薦め。男性ファン向けに閻魔あいのビジュアルが妖艶なデザインにされていたり、人気声優・能登麻美子のウィスパーボイスで「いっぺん死んでみる?」と囁くシーンが異様に怖かったり、楽しめる要素が多い。