殺人許可証を持つラーメン屋!? 『殺し屋麺吉』

●決めぜりふ 「天誅ラーメン 毎度あり」

先の3タイトルよりも知名度は低いかもしれないが、個人的に高評価なので紹介。暗殺者+ラーメン屋というただでさえ異色の取り合わせに“復讐(天誅)”の要素を加えたユニークな漫画だ。

終戦直後の混乱期。のさばる悪党たちに手を焼いたGHQは、ある日本人に“殺しのライセンス”を与え、闇の始末人に仕立てあげた。ラーメン屋台をひく暗殺者の通称は、殺し屋 麺吉。「天誅ラーメン 一丁」というキーワードで依頼を受け、あらゆる悪を葬り去った。主人公はその殺し屋からすべての技術を受け継いだ、二代目・麺吉である。――こんな突拍子もない設定だが、これがなかなか非常におもしろい。

二代目は長髪を後ろで束ねた気のいい兄ちゃんで、ラーメン作りと殺しの腕前は天下一品。法では裁けない悪党に虐げられた弱者が“ラーメン屋台をひく凄腕の殺し屋がいる”との噂を信じ、死の間際に麺吉へ「天誅ラーメン 一丁」と言い残す。そこから麺吉は情報通のチャイナ美女・リンレイからサポートを受けつつ悪党に迫り、最後はラーメンの出前を装って暗殺するのだ。

この作品のユニークなところは2点ある。まず主人公は私怨ではなく他人のために、大金をもらわずとも“義の心”だけで危険な殺しに挑む。正義を理由にした依頼を一切受けない『怨み屋本舗』とは見事に対照的だ。

そして一番の特徴はラーメン屋という設定をフルに活かしたところ。依頼を受けるのはラーメン屋台を引きながら。敵地に潜入するのもラーメンの出前を装って。「本当に美味いものを食べたとき、人はその心の闇をすべて吐き出す」という言葉通り、ラーメンを食わせながら悪事をすべて聞き出してしまう。やがてターゲットが汁をすべて飲み干したら、丼の底から“天誅”の文字が出現。そこから戦闘開始となる。

ただで殺されるターゲットだけではなく、武器を持って決死の反撃をしてくる者もいるが、ここでもラーメンを題材にした暗殺アイテムが大活躍。菜箸、ナベ蓋、練りに練った防弾性の麺生地……コミカルな奥義で敵を圧倒し、最後はオカモチ(出前の料理を入れる鉄製ケース)で首を切り落としフィニッシュ。思わず読者は「ラーメン屋強ぇよ!」と驚かされること請け合いだ。

作者の富沢順は大ベテランだけあって作画・構成力とも安定感が抜群。どういうわけか全6巻のコミックスが半端なところで終わっているが、そこを差し引いても十分に楽しめる。この作者は過去に『企業戦士ヤマザキ』が実写化された経歴をもつので、この“倍返し”ブームに乗っかって本作のメディアミックスにも期待したい。

 

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。