(左から)作家の福井晴敏氏、阪本順治監督、社会学者・古市憲寿氏

映画『人類資金』の阪本順治監督、本作の原作者で作家の福井晴敏、若手社会学者として注目を浴びる古市憲寿が21日(土)、都内で行われた試写会に来場し、大学生30人とのトークセッションに臨んだ。

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『亡国のイージス』でも原作者と監督という形でタッグを組んだ福井と阪本監督の最新作。旧日本軍が故国復興の財源として隠匿したと言われる“M資金”を巡る様々な組織、個人の攻防を通じて、混沌を見せる金融経済の在り方を問いかける。

元々、阪本監督は30年以上前にM資金について知り、いつかこれをテーマにした作品を撮りたいと考えていた。『亡国のイージス』の後、福井に原作を依頼し、小説化と映画製作が同時並行で行われるという異例のプロジェクトが進められた。最初に福井が完成させたプロット(あらすじ)を読んだとき阪本監督は「ロシアとかアメリカとか国連が次々と出てきて、『映画化が前提と言ったのに…』と思った(苦笑)」ととてもこの壮大な規模では映画化は難しいと考えたそう。だが「それを凌駕する面白さがありエンターテイメントに昇華されており、意表をつくM資金の発想があり、チャレンジしようと思った」と振り返る。

福井は発想のきっかけとしてリーマンショックを挙げ「いまのマネー経済とは何なのか? 5つのイスの周りを100人が回っているイス取りゲーム。回ってる間は景気よく見えるけど、みんながイスに群がっても95人は座れないし座れた5人もボロボロになる。誰も幸せになれない構造」と現代の経済システムを説明。「5つのイスを解体して100人が座れるように小さなものに作りかえればいいけど、実際にリーマンショックの後にしたことは、イス取りゲームの音楽のボリュームをどんどん上げることだった。いい加減、このサイクルから脱せられないか?」と本作に込めたメッセージを訴える。

古市は、10兆円とも言われるM資金でこうした経済構造を変えようとする男たちの姿をも描いた本作を「“社会を変えるとは?”ということを真面目に考え、取り組んだ映画」と絶賛。この「社会を変える」というテーマについて若者たちからも様々な意見や感想が飛び出した。

「善悪の観念を変えていくことが大事なのでは」というある大学生の言葉を受け、福井は「成功とは何か? ゴールの発想を変えることが必要。毎年、経済は成長を求められるけどどこに行けばゴールなのか? 成功のポイントをずらして考えるべき」と説く。阪本監督は「ルールとはそれを作った人に都合よく作られている。それに盲従せずに疑い、検証していくことが大事」と自らの作品作りの哲学を語った。

『人類資金』
10月19日(土)公開

取材・文・写真:黒豆 直樹