高橋×齊藤「お互いの魅力」とは?

――今回初めて、監督と主演としてご一緒したお互いの魅力、シンパシーを感じられたところなどを教えてください。

齊藤:年齢では括れないと先ほども言いましたけれど、一生さんは手前ではなく、奥に魅力がある方なんです。

現代は多くのものが、表現も含めて手前、手前にある(分かりやすさばかりが求められる)世界だと思いますけど、一生さんは奥行き感が果てしない。一緒に並んでいても、ちょっと違うんです。

高橋:一緒ですよ(笑)。

齊藤:いやいや(笑)。映画とドラマという線引きはあまりしたくないんですけど、一生さんは本当に映画的な方です。

詩的な方だなとも思うし、表現していないときの一生さんには観る側が思考や想像を増幅できる日本の伝統芸能みたいな魅力がある。

だから、海外の映画祭でも外国人の観客が一生さんが作ってくれた心情の余白に感情移入してくれて、『blank13』を自分の物語としてとらえてくれた。

そういった意味で、詩の世界の方。真似をしたくても、まったく持って手が届かない、代わりがきかない方です。

高橋:そんなことないです(笑)。工さんが見られているのはたぶん居住まいだと思うんですけれど、居住まいはどうしても正すことができないし、修正がきかないものです。

僕はお芝居に上手いも下手もないし、人柄は肉体や顔に出てしまうと思っているけれど、そういった意味では俳優業も映画監督も最終的には人柄なんだと思っていて。

俳優の「俳」という字は「人」に「非」ずと書くけれど、裏を返せば、人であるということをちゃんとやっている俳優は、それがその人の居住まいにしっかりと出てくる。

いまのお話を聞いても、工さんが誠実な人だということがよく分かると思います。それは工さんをいろいろなメディアで見る度に思っていたことではあるので、ご一緒できて本当によかったです。

自分と合う、合わないということもあるでしょうけれど、工さんはきっと僕がとても愛せる人柄をお持ちなんだと思います。僕個人としてはもちろん、同じ俳優としても、監督としても大事にしていきたい人です。

高橋&齊藤が「最初に衝撃を受けた映画」とは?

――おふたりは思考が何となく似ていますよね。

齊藤さんが映画好きなことは周知の事実ですし、高橋さんも齊藤さんが先ほど言われたように映画的な空気を纏っているような気がするのですが、おふたりが最初に衝撃を受けた映画を最後に教えてください。

高橋:僕は『ガタカ』(97)です。中三のときに観たんですけれど、SF映画と呼ばれるもので人間が描けるということが衝撃でした。

齊藤:僕は『チャップリンの独裁者』(40)です。チャールズ・チャップリンが床屋のチャーリーとアドルフ・ヒトラーを想起させる独裁者ヒンケルをひとり二役で演じているんですけど、ちょび髭のおじさんが笑わせてくれるそれまでのチャップリンの映画とテイストが違っていたし、最後の6分ぐらい続く演説のシーンはチャップリンの魂の叫びだと思いました。

もちろん、最初に観たときは小学生だったので、意味は分からなかったんですけど、あの演説は何だったんだろう?って、ずっと頭に残っていて。

僕がその後に通った演劇の学校はチャップリンの映画を題材に教えてくれたから、そこでチャップリンがヒトラー政権に懸賞金をかけられながら、それでも映画を撮っていたという背景やこの映画の影響力を知って。映画がただの娯楽ではなく、その奥にはジャーナリズムの精神やメディアとしての側面もあるということを、「悲劇と社会性」みたいなことと一緒に学んだので、とても印象に残っています。           

昨今の日本映画は分かりやすさばかりを追い求め、観た人が同じように感動できたり、答えが特定されるものが主流になっている。

でも、人と人との出会いや心の交流と同じように、映画は本来、観た人それぞれに感想や印象、感動や衝撃が違うのが当たり前のもの。

観た人が対峙した映画から何かを読み取ったり、想像したり、勝手に誤解して違う物語を妄想したってかまわない。

フィルムからデジダルに変わったように、長い歴史の中で制作のスタイルの違いも変わった映画は、カタチも自由で常に表現の可能性を広げている。

今回のインタビューで、齊藤工と高橋一生はそんな新しい時代の映画の申し子なのだと思った。

映画や芝居についての確かな言葉、醸し出す空気がとても似ていて、ふたりが愛してやまない“映画”の輪郭が何となく浮き彫りに。

それを具現化したい映画『blank13』を観て、あなたは何を感じ、どんなことを思うだろう? 彼らの魅惑のコラボから誕生した映画を、ぜひ自分の脳内で完成させてみて欲しい。

『blank13』シネマート新宿にて上映中 2月24日(土)より全国順次公開

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。