●●なキムタクって、あまり見たくないですよね(宮藤)

撮影/井上太郎

この他にも「『私のどこが好き?』という質問に対する正しい答えとは?」「なぜ大きな声の人の意見は通ってしまうのか?」「ダンナは好きなんですが、エッチするのが面倒。どうしたらよい?」「エッチの時、メガネをはずすタイミングはいつ?」など、幅広い質問にゆるゆると答えていく宮藤とみうら。その中から、イベント終盤に飛び出したふたつの質問に対する回答を紹介します。
 

質問「どうして電車内や駅でいちゃついてるカップルはイケてない人が多いの?」
みうら「俺もそうだったけど、若い時って発表したいのよ、『イケてない俺でもこんなにイチャイチャできるんですよー!』って。それをやるのはやっぱり都会なんです。俺も荻窪とか阿佐ヶ谷ではやらなかったもんね。渋谷とか銀座まで出てきたもん」
宮藤「お互いあまりモテたことない人たちが、嬉しくてはしゃいじゃってるんだ」
みうら「そう、田舎者なんですよ」

質問「どうして木村拓哉はアドリブをしてしまうの?」
宮藤「アドリブっぽい雰囲気が上手っていうことだと思うんですけど。でも、きっちり演技する木村拓哉って、そんなに見たくないですけどね。一言一句セリフをきっちり言うキムタクって、あまり見たくないですよ」
みうら「(軍人口調で)『私は山本五十六である!』とか言わないもんね(笑)。そういうみんなの気持ちが、彼をそうさせてるのかもね」


前者は誰もが一度は見たことのある、イラッとする不細工カップルの話題。でもふたりの解釈を聞くと、次からはなんだか許せるような気がしてしまうから不思議です。後者の質問に対しても、簡潔ながら鋭い人物評を繰り出すふたりの鋭い観察眼と反射神経に驚きました。本の帯に「永遠の中2たち」と書いてある通り、この日もくだらなすぎるバカ話に爆笑しっぱなしの3時間でしたが、そんな中にもハッと気付かされる瞬間がいくつもありました。

宮藤とみうらに共通するのは、人間という生き物に対するフラットでフェアな視点です。「俺らってどんなにカッコつけても、やっぱりバカで、イケてなくて、どうしようもないよね」というぶっちゃけた真実を、無理に肯定もせず必要以上に卑下もせず、まるっと受け入れていく姿勢――それは、ふたりの作品にも通じる部分だと思います。

普通人には言えないような恥ずかしい質問を人前で晒されていたこの日のお客さんたちは、しかしみなさん一様にものっすごく楽しそうで、嬉しそうな表情を浮かべていました。それはただバカ話に笑っていただけではなく、日々抱えている疑問や悩みが、宮藤とみうらの手によって見事に消化/昇華された喜びによるものだったのではないでしょうか。
 

対談集『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』の読後感も、まさにそんな感じ。ゲラゲラ笑ったり、思わず頷いたりしながら読んでいるうちに、気がつくとフッと心が軽くなっている自分に気づくのです。

この本を読んだところで、資格が取れるわけでも、お金持ちになれるわけでも、出世できるわけでもありません。でもヘタな自己啓発本を読むより、よっぽど世界のことを知れて、自分のためになる一冊だと思いますよ。

また現在、六本木スペース ビリオンにて写真展『三浦憲治・写真『みうらじゅんと宮藤官九郎の「一泊」』
[どうして人はキスをしたくなるんだろう?」(集英社)刊行記念展〜]』が開催中(10月4日(金)まで無休)。本著のために三浦憲治が撮り下ろした、宮藤とみうらの一泊旅行の模様が多数展示されている、好きな人にはたまらない内容。こちらも要チェックです。

あ、最後に。「この本、たちまち増刷だって! これ記事に書いておいてね!」(みうら)とのこと。みうらさん、ちゃんと書いておきましたよ!