古厩智之監督

あえて形容する必要はないが、この人はもう“青春活劇の名手”と言っていいのではないだろうか? 『奈緒子』や『ホームレス中学生』『武士道シックスティーン』など、若者を主人公にした好編を多く発表している古厩智之監督。テレビドラマの演出でも確かな手腕を発揮している彼が、今度は中高生の親世代が子供に読ませたい本として支持を集めるベストセラーの映画化に挑んだ。

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新作『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』は、塾講師で作家の喜多川泰氏による同名小説が原作。映画化に際しては加味した点があったと明かす。「原作の主人公はすごく素直な心の持ち主。ただ、僕自身に引き寄せて考えたとき、もう少し周りに対して素直になれない面とかあっていいかなと思って。登場する大人たちも同様。原作は親切な人が多いけれど、もっと大人の都合やずるさを入れてもいいのかなと。そのあたりを含めてドラマは作り上げていきました」。

その物語は、学校で浮いた存在にならないように、つい嘘をついてしまう17歳の和也が、わけあって東京から九州の自宅まで旅することに。道中で様々な大人との出会いを通し、彼が自身を見つめ直していく。その和也の姿から感じとれる思春期の揺らぎは、現代を生きる中高生たちの心に多くのメッセージを残すに違いない。一方で、主人公にいわば喝を入れる大人たちの姿は、親世代の心に深く響くはずだ。この点について監督は「和也が出会う余命僅かのトラッカーにしても、わけありの中年女性にしても、今伝えておかなければいけないことを赤の他人の和也にきちん正面から伝える。大人の責任ってこういうことなのかもしれない。僕自身も監督としてのキャリアが20年を超えてきて、そろそろ若い人にいろいろと意見を求められる立場にさしかかってきたので、今回の作品を通して、いろいろと考えさせられることがありました。17歳の少年が主人公ですが、その時代を通り過ぎた人にも伝わる作品になったと思っています」と語る。

また主演を務める注目の若手俳優、佐野岳もさることながら、その脇を固める役者たちの演技もすばらしい。「イッセー(尾形)さん、杉田(かおる)さん、塚本(晋也)さん、唯野(未歩子)さん、いずれもこの人でなければこの役は成立しなかった。すばらしいキャストに恵まれました」と古厩監督。これから17歳を迎える世代から、今17歳を生きる世代、かつて17歳だった世代までの心に届1作に期待を!

『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』
9月28日(土)よりシネマート新宿ほかロードショー

取材・文・写真:水上賢治