笑福亭鶴瓶  撮影:橘 蓮二 笑福亭鶴瓶  撮影:橘 蓮二

この10年で定着した感のある「笑福亭鶴瓶落語会」が、今年も幕をあける。10月26日(土)の仙台公演を皮切りに、11月16日(土)の福岡公演まで全12公演。昨年までの公演とひと味違うのは当日の舞台でかけられる噺が事前に告知されていること。たとえば、4日間の開催が予定されている東京公演では、「お直し」「錦木検校」「死神」「らくだ」の4席が事前アナウンスされている。

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落語家の公演スタイルとしては、決して珍しいものではない。観客の立場からすると、お目当ての噺が必ず聴けるメリットがあるからだ。だが、この人の場合、落語界のオールドルーキーである。50歳で本格的に落語と向き合ってから十数年。事前に告知されたこの形式でも聴かせられる自信作を、ようやく手に入れたということだろうか。「いえ、落語に関しては、全然まだまだです。正解のようなものをつかんだと思って、それをなぞった途端にすっと逃げていきますから。ただ、ありがたいことに『鶴瓶の死神を聴きたい』『鶴瓶のらくだが見たい』と言ってくれる人がいる。この“鶴瓶の”と言ってもらえるのが、噺家冥利に尽きるというかね。いまの時代は、自分の納得のいくように落語を変化させている人たちがたくさんいると思うんです。もちろん、落語を忠実にやる人もいてはるし、どちらが正解というわけじゃない。ただ、僕の場合は、落語=演じるという意識が強いですから。演じる自分が納得いくように噺を突き詰めて変えていきたいタイプやと思うんです」。

落語には、現代を生きる噺家がオリジナルのストーリーを紡いだ新作落語と、江戸時代以降から受け継がれた古典落語がある。鶴瓶が口にした「自分の納得いくように変えていきたい」というのは、古典落語のこと。たとえば、三遊亭圓朝によって生み出されたとされる「死神」にしても、様々な落語家によってサゲ(いわゆるオチ)の試行錯誤が繰り返されてきた。「九州で聴いた小朝さんの『死神』は鳥肌もんでした。『死神』には、人の生き死にを左右する重要な場面があって、それが“布団をまわす”という描写なんですね。ふつうの『死神』は、生きてる主人公がまわすんですけど、小朝さんのは『俺がまわしてやるよ』と死神に言わせてはった。僕の『死神』では、いままで男が担っていた死神の役割を女性にすることで自分なりの物語を作ったつもりなんですけど、小朝さんのその発想は、聴いていてぞくぞくっときました」。

落語=伝統芸、伝統芸=退屈。そんな先入観を抱いている人がいるのなら、笑福亭鶴瓶の落語を聴いてから判断の是非をくだしても遅くない。落語は型があるからこそ芸人による差異がうまれ、様々な落語家が時代を超えて物語を磨いてきたからこそ、自由なのだから。

10月29日(火)から11月1日(金)まで東京・赤坂ACTシアターほか、全国で公演。

取材・文:唐澤和也