新国立劇場オペラ「リゴレット」(2013年10月) 撮影:三枝近志 新国立劇場オペラ「リゴレット」(2013年10月) 撮影:三枝近志

10月3日、新国立劇場の2013/2014シーズンが、ヴェルディの傑作オペラ「リゴレット」新制作で幕を開けた。ヴェルディ生誕200年の記念公演であり、演出は4年前の同劇場「ヴォツェック」で水を使った刺激的な舞台を見せたドイツ演劇界の鬼才アンドレアス・クリーゲンブルクとあって、期待に胸を膨らませたオペラファンが大勢来場した。

新国立劇場オペラ「リゴレット」のチケット情報

「リゴレット」は、道化として生きるしかない主人公リゴレットの悲哀、最愛の娘ジルダとの父娘愛に、呪いと復讐という激しい情念が渦巻く作品だ。「女心の歌」など名曲ぞろいだが、物語としては実は残酷で暴力的。クリーゲンブルクの演出はその視点から「リゴレット」の本質をあぶりだした。「過激な物語を現代の規範に照らし合わせる」ために選んだ舞台設定は、現代の大都会の瀟洒なホテル。「匿名性を保てるホテルは現代社会の縮図」だというクリーゲンブルクは、富裕層が滞在する客室と、貧困層が住むホテル屋上、両者が行き来する廊下で、モラルの崩壊や貧富の差など「社会のコントラストをお見せしたい」と語る。

さて、幕が開くと、円筒状のホテルの客室棟があらわれ、舞台上にはバーカウンター。ドレスアップした人々がパーティを楽しんでいる。特に女性のドレスは和洋折衷のデザインが実に斬新で美しいのだが、間もなく、それが絶望と言う名の衣裳に代わる。これが今回の演出の肝で、上品さに隠された富裕層の暗部を容赦なく突きつけるクリーゲンブルクの表現方法は、なかなか刺激的である。また、演劇人らしく、物語を多層的に描く演出も面白い。ジルダがマントヴァ公爵を思って歌う「慕わしい人の名は」や、ジルダがさらわれたことを嘆くマントヴァ公爵の「ほおに涙が」などでは、歌詞に別の角度から光が当てられ、実にスリリング。そのほか深読みしたくなるポイントが多々あり、観客は帰り道の会話がさぞはずんだことだろう。

タイトルロールを歌ったマルコ・ヴラトーニャにとってリゴレットは「夢の役」で、30以上の役をレパートリーにしてから自らに解禁した役。そんな思いがあふれる丁寧な歌唱は心に響く。マントヴァ公爵役のウーキュン・キムは冒頭からフルパワーで聴かせ、悪役としての存在感も抜群で、観客をドラマに引き込んだ。ジルダ役のエレナ・ゴルシュノヴァは、優しい響きで純真なジルダを表現。ピエトロ・リッツォの指揮は、東京フィルから重心の低い音を導き出し、舞台をさらにドラマティックに描き上げた。

新国立劇場オペラ「リゴレット」の残る公演は、10月9日(水)、12日(土)、16日(水)、19日(土)の4回。チケットは好評発売中。

取材・文:榊原律子