『ウォーム・ボディーズ』(C)2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved

ゾンビというと日本では“コワい”だの“キモい”だのと、マイナス・イメージで受け止められがちだが、アメリカでは今やサブカルチャーのアイコン。映画はもちろん、ゲーム、小説、コミックと、多彩なメディアで取りあげられ、それが商業的にも成立している。裏を返せば、狂暴な生ける屍というイメージだけでは語れない、興味深いクリーチャーに進化しているのだ。

その象徴と言えるのが『ウォーム・ボディーズ』。ゾンビになった青年が、人間の美少女に恋をする、奇想天外なラブ・コメディだ。主人公のゾンビ青年の独白とともに物語は展開。停止したはずのハートに火がついたはいいが、ノロノロとしか動けないし、言葉もスラスラと出てこない。彼女を守ろうと奮闘しても、自分なりに気を遣ってみても、所詮は怖がられる。生前はイケメンだったが、ゾンビはどこまでいってもゾンビ。“何やってんだ、俺”というようなやるせなさが独白からにじむが、そこにユーモアのみならずリアリズムが宿る。

リアリズムというと大げさに思われるかもしれないが、このゾンビ君、ごく普通のニンゲンのメタファーととれなくもない。恋をしても想いを上手く伝えられないことは誰にでもあるのでは? つまり主人公がキモいバケモノでも、その気持ちがわかってしまえるのが本作の妙味。“彼”は純情に絡め取られ、モヤモヤしながら生きている、不器用な私やあなたでもあるのだ。

現代のゾンビ映画は“コワい”“キモい”を超えたところに妙味がある。ゾンビというフィルターを通して語れるドラマにはまだ余地があり、それゆえにサブカルのアイテムとして重宝されている、ということ。ともかく、ゾンビ嫌いの方は、偏見を捨てて本作に触れてみて欲しい。きっと“彼”に恋するはずだから。

『ウォーム・ボディーズ』
公開中

『ぴあ Movie Special 2013 Autumn』(発売中)より
文:相馬学