『あり方スクール』はこうしてできた

ばなな先生「今の子どもは、早いうちから本音と建前を使い分けます。それさえも、親が気を使っていることの反映なんです。たとえば親同士が気を使いあう関係性だと、子ども同士もお互い気を使うことがありますね。親同士の関係性を子どもがコピーするんです」

確かに、子どもはその場の空気や親の気持ちが怖いほどわかる時があります。それを言語化する能力がまだない分、実際の行動に出てしまうのですね。

ばなな先生の教員時代は、子どもの気持ちがわかるだけにもどかしいこともあったのではないでしょうか。

ばなな先生「そうですね。教室に入ってきただけで今朝、この子に何かあったなって。ママに怒られたでしょ、って声をかけると机に突っ伏して泣き出す。ですが、しょせんクラス担任ですから、家庭のことに踏み込むには限界もありますし、もどかしかったですね。

ママに特化した、ばなな先生の『あり方スクール』は、子どもはママに承認されたがっているし、ママのままで母親業をやってくれと願っているんだよ、ということを伝えたくて生まれました」

本来の自分は小学校3、4年生の自分?

ばなな先生「今の時代、ママに求められることは多様です。そのせいか、ひとり一人対面して話をするとけっこうその人が見えるのですが、コミュニティの中に置かれた時のあり方が自分らしくないんです。それは、子育ての正解がどこかにあると思って、ママが他者に気を使っているからなんですね」

ママカーストも、ママ友同士のトラブルも、そのコミュニティにいれば正解がみつかると思うからこそ発生するのでしょう。実は子育てに正解などなく、自分の子どもに向き合う体験のすべてこそが子育てだと、ばなな先生は言い切ります。自分のままで子どもにぶつかっていくことを、子どもは心から望んでいるのです。

自分らしさを取り戻したいと思ったママたちが、あり方スクールの門を叩きます。ばなな先生のかける魔法とは、いったいどんなものなのかお聞きしたところ、「あり方スクール、通称“ありスク”のキャッチコピーは、“小学校の忘れ物を取りに行く“というのです」とニヤリ。

ばなな先生「小学校低学年の子どもは、基本的に親のコピーです。授業参観などで親子を見ると、おもしろいくらいに似ています。高学年になると、親の社会性をコピーするようになります。先ほども言いましたが、低学年と高学年のはざまの小学校3、4年生のあり方が、その人本来のあり方なんです」

3、4年生というと、いわゆるギャングエイジと呼ばれる年齢にあたりますよね。この時のあり方を維持できるかが、その人らしく生きることに関係してくるということでしょうか。

ばなな先生「ありスクには、“自分らしさがわかりません”という人も来ます。人には人の数だけ固有の“見方”、そして“聞き方”があります。親から受け継いだ”聞き方“の行動パターンによって、時に思っていることと違うことをしてしまうこともあるるんです。

ありスクは、まず、その人がどんな“見方”、そして”聞き方“をしているかに気づいてもらう場所です。小学生の頃、ついやってしまったことをもう一度やったり、親に嫌われたくなくって頑張ったことを思い出したりしながら、どの出来事も自分というかけがえのない存在を構成する因子だと、その人のペースで気づいていきます。ですから、気づきも本当に人それぞれです」

子ども時代のやり直しのような感じなのでしょうか。たとえば、どんなワークがあるのか、聞いてみました。

ママを小学生に戻す「かかりの時間」とは?

ばなな先生「初日にするワークに“かかりの時間”というものがあります。ルールは2つだけ。1つは自分を幸せにすることをする。もう1つはみんなを幸せにすることをする。後は何をしてもいいというものなのですが、これは実は、最初に小学生を対象にやったんですね。

初めはもうカオスでした……でもね、不思議なことにだんだん場が調和していくんですよ。何がすごいって、お互いを尊重しあうんです。あなたは素敵だ、そしてわたしも素敵だっていう感覚になるんです」

こちらは絵本になっていて、筆者も拝見させていただきました。ひとりで率先して掃除を始める女の子が出てきます。その子が先生に、「それはあなたを幸せにするの?」と聞かれて泣いてしまうくだりがあるのですが、これは実際にあったことなのだそうです。

ばなな先生「あの子は掃除することでママに承認されるから頑張るんです。それは悪いことではないのですが、それが楽しいのかと聞かれると、もうパニックになるんです。これって自分は楽しかったっけって。

普通だったら、掃除をしてほめられると思っていたのに、そんなことを聞かれるとは思っていなかったんでしょうね。自分を幸せにすることより、他人を幸せにすることにエネルギーを注いでいる子は多いです」

それはそのまま、ママたちにも当てはまりそうです。家族のことや子どもの世話に追われて、自分の幸せがなんなのか、よくわからなくなってきている人は多いように感じます。

絵本では、掃除の子が泣いてしまった後、クラスの中ではおとなしくて目立たない子が、ひとりで黙々と折り紙を折りはじめ、その様子が楽しそうなため、折り紙係が増えていく、という展開になっていきます。

大人ではどのような展開を見せるのでしょうか、とお聞きすると、

ばなな先生「この“かかりの時間”を、ありスクでは初日にママたちにやってもらうのですが、大人はどうしてもいきなりやると、子どもたちのようなカオスが生まれずに、当たり障りなく事務的に行う人が出てきてしまうので、アイスブレークとして、ある仕掛けをしています。

また、実際にやってみて、楽しいという人と、楽しくないという人と分かれますね。でもいいんです。楽しくない人も、なにかを感じているのですから。そこから始まるんですよ。そこから自分に向き合っていくんです。こちらからも、適切な言葉がけをします」