いのうえひでのり  撮影:阿部章仁 いのうえひでのり  撮影:阿部章仁

森田剛主演、いのうえひでのり演出の舞台『鉈切り丸』が10月12日、大阪・オリックス劇場にて開幕する。シェイクスピア作品を大胆に翻案して展開する“いのうえシェイクスピア”シリーズの新作で、脚本の青木豪が「リチャード三世」の世界を鎌倉時代へと大転換。天下獲りに血を流す武士たちを描いた、ダイナミックなピカレスク史劇を誕生させた。森田が演じるのは源頼朝の弟、範頼(幼名・鉈切り丸)。醜い容貌と障害を持ちながら、野心をたぎらせてのし上がっていく悲劇の大悪党だ。頼朝を演じる生瀬勝久、家臣の梶原景時に扮する渡辺いっけいのほか、麻実れい、若村麻由美ら実力派から、本作が初舞台となる成海璃子まで魅力の顔が集結。豪快な殺陣やアクションにも期待がかかる話題作の稽古場を訪れた。

舞台『鉈切り丸』チケット情報

舞台上では範頼(森田)や景時(渡辺)、北条政子(若村)らが頼朝(生瀬)を囲むシーンの稽古が行われていた。眼光鋭く狡猾に立ち回る森田、腹に一物ある表情を浮かべる渡辺など、会話から漂うスリリングな雰囲気は歴史劇ならでは。しかし、生瀬が得意のコミカルな怪演で予想外の頼朝像を作り上げ、重厚なムードをことごとく笑いに変えていく。夫婦漫才のような生瀬と若村のやりとりに稽古場がドッと沸く一幕も。だが背中を丸め、足を引きずる森田が上目遣いで生瀬をみつめた途端、ひんやりとした不穏な空気が戻る。この揺さぶりの魅力がたまらない。続いての場面では成海が巧者、秋山菜津子を相手に健闘。舞台演技に不慣れな様子は否めないが、真剣な眼差しで真っ直ぐに言葉を届ける姿勢が確かな伸びしろを感じさせた。いのうえは俳優たちの演技を満足の笑みで見ながらも、同じシーンを何度も繰り返して、細かな動きと効果音のきっかけを確認。いのうえ舞台に不可欠の音と演技の調和が生むドラマを綿密に作り上げていく。稽古終了後、いのうえと、いのうえ作品初参戦の生瀬、11年ぶりの参加となる渡辺に本番への手応えを聞いた。

「実在した“範頼”というキャラクターを青木豪さんがよく見つけてきたと思う。穏和という説と残忍なヤツという説と両方あって、謎の多い人物なんですよね。シェイクスピアの翻案ではベストと言えるくらいよく出来た脚本です」。いのうえがそう太鼓判を押すと、生瀬も「落差のあるジェットコースターのような作品。初めて観る人は、舞台ってこんなに面白いんだ!とハマると思う」と自信満々。渡辺は「森田くんは肝が据わっている。彼のためならやらせてもらいますよ、という気になります」と座長への信頼を語った。岩代太郎が手がける音楽も話題で「映画か大河ドラマみたいで、聴いているとせつなくなる。スゴいですよ!」(いのうえ)。豪華かつ盤石の布陣で挑む、規格外のシェイクスピア。また新たな“いのうえ活劇の決定版”が生まれそうだ。

公演は10月12日(土)から26日(土)まで大阪・オリックス劇場(旧大阪厚生年金会館)、11月8日(金)から30日(土)まで東京・東急シアターオーブにて。チケット発売中。

取材・文 上野紀子