『トランス』(C) 2013 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

「観たことのない映画」に挑む。これはダニー・ボイルのポリシーで、特にここ数作、その志向は顕著だ。本作は“盟友”ジョン・ホッジが参加した巧妙な脚本もそんなボイルの姿勢を後押し。コアな映画ファンの脳細胞もたっぷり刺激し、異様な体験を届ける野心作となった。

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オークションで盗難事件が起こる冒頭から、快調なテンポで一気に観る者を引き込む。音楽と映像の相乗効果でたたみかける演出は、ボイルの得意芸。そして事件が一段落し、主人公が催眠療法を受けるあたりから、犯罪サスペンスが未知のジャンルへじわじわ変貌していく。映し出される状況が、現実なのか、催眠中の主人公の脳内映像なのか、区別がつかなくなる混沌の展開は、『インセプション』も連想させるが、こちらの迷宮の度合いはハイレベル!そんな不可解なムードに反して、思いのほかスッキリとした結末が訪れるのが本作のうまさであり、「観たことのない」感覚を届ける要因かもしれない。

ジェームズ・マカヴォイを主役に据えたのも大正解。犯罪者や屈強なヒーローを演じようとしても、つねに草食系でおどおどした雰囲気が漂う彼の持ち味が、これほど生かされた作品も稀だ。

『トランス』
10月11日(金)全国公開

『ぴあ Movie Special 2013 Autumn』(発売中)より
文:斉藤博昭