高橋克実  撮影:源 賀津己 高橋克実  撮影:源 賀津己

今なお根強いファンを持つ太宰治。その未完の絶筆『グッド・バイ』をモチーフに、劇作家・北村想が書き下ろしたオリジナル作品『グッドバイ』が上演される。演出はtsumazuki no ishiの寺十吾。段田安則、蒼井優らと共演する高橋克実は、小説にはない役柄で登場する。

舞台『グッドバイ』チケット情報

「太宰治というと“愛人と心中した作家”というヘビーなイメージが強くて……」という高橋。たしかに太宰作品は愛のままならなさ、人間の苦悩や絶望をにじませるものが多い。ところが未完のまま遺された小説『グッド・バイ』には不思議な明るさが漂う。10人の愛人を持つ男が、絶世の美女の協力で愛人たちと別れようともくろむのだ。「喜劇風なのが意外でしたね。まぁ、ほかの太宰作品といっても、そんなに多く読んでいるわけじゃないですけど(笑)」。小説のシチュエーションを生かした北村版の戯曲では、8人の愛人を持つ大学教授(段田)が主人公。助手(柄本佑)のすすめで若い女(蒼井)を雇い、愛人との関係を断つためにあれこれ策を練るというラブ・ロマンス劇になっている。

高橋が演じるのは主人公たちが立ち寄る屋台の常連客。古きよき時代の文豪風マントをまとい、先生と女の関係に興味津々、やたらと首を突っ込んでくる。「いつも飲んだくれてる“太宰気取り”の物書きなんです。ただ、太宰治を気取るからには、髪型もそれらしくコスプレしたほうがいいのか気になるところで」と今から扮装の心配もしつつ、北村の戯曲には「小劇場の匂いがする」と懐かしむ。「もちろん想さんの『寿歌』も20代の頃に観ていました。今回の台本は、あの当時自分たちがやっていたような小劇場寄りのタッチで親しみを感じますね。蒼井優ちゃんがキツい関西弁で登場したり、山崎ハコさんが歌手役で本人の歌を歌ったり、不思議な状況になってます(笑)」

段田、蒼井、柄本、そして屋台の親父役の半海一晃と、映像でも活躍する出演者たちは、それぞれ別の舞台からほぼ間を置かずに稽古に結集する。「みんな、どんだけ舞台好きなんですかね」と笑う高橋本人も、蜷川幸雄演出『ヴェニスの商人』からの舞台続きだ。「舞台は毎回“俳優としてもう一回考え直したらどうだ?”と突きつけられるようで、具合が悪くなるんですよ(笑)。でも、優れた俳優さんと同じ舞台に立てることは何よりも刺激になるんです」。少数精鋭のアンサンブルの中で、“太宰気取り”の男がどんなスパイスを加えるのか注目したい。

公演は、11月29日(金)から12月28日(土)まで東京・シアタートラムにて。

チケットの一般発売は10月19日(土)午前10時より。現在チケットぴあでは、インターネット先行先着を受付中。受付は10月17日(木)午後11時30分まで。

取材・文:市川安紀