ジャーナリストの林信行氏

アップル・コンピュータの創業者であり、数々の伝説的なプレゼンテーションでも知られるカリスマ経営者、スティーブ・ジョブズの半生を描いた映画『スティーブ・ジョブズ』が11月1日(金)に公開となる。90年代からアップルを取材し続けるジャーナリストの林信行氏に、ジョブズとはどんな人間だったのか、その素顔について伺った。

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1976年、ジョブズは自分とよく似たはみ出し者の仲間たちと、自宅カレージにアップルを設立する。卓越した話術と鋭いビジネス嗅覚で次々とヒット商品を送り出し、わずか4年で株式を上々したジョブズだったが、その激しい性格ゆえに敵も多く、ついには自らの会社を追われることになる――。

林氏がジョブズに出会ったのは、そんなジョブズがアップルに復帰した直後の貴重な講演だった。その後、林氏はジョブズとインタビューなどを通して直接話をしたり、あるいはジョブズをよく知る人間を通して話を聞くことで、ステーィブ・ジョブズという人間を見つめてきた。「ジョブズはアーティストのような完璧主義者でした。初来日したとき、イベントに出展していたアップルジャパンのブースで、ポスターの紐が一本緩んでいるのを見て付け直させたくらいです」。

ワガママで傲慢――そんなレッテルを張られるほどに、ジョブズの完璧主義は徹底していた。しかし、それこそがiPhoneやiPodといった革新的な製品を生み出した秘訣であり、現在の日本のメーカーに欠けているものだと林氏は言う。「日本のメーカーは90年代から本質を忘れた効率化が進み、経営者も守りに入ることが多くなりました。そうなるとアップルのような"魂のこもった製品"は作れません」。

好き嫌いは別にして、ジョブズという人間はそのカリスマ性故に人を惹きつける。映画『ステーィブ・ジョブズ』で描かれているのは、そんなジョブズという人間の内面だ。「ジョブズという人間をわかりやすく描いていました。特にジョブズの理不尽な部分を彼自身の目を通して表現したのは画期的といえるでしょう」。ありがちな伝記ではなく、映画として尖った作品に仕上がった『ステーィブ・ジョブズ』。アップルファンならずとも必見の一本だ。

『スティーブ・ジョブズ』
11月1日(金)TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー

取材・文・写真:山田井ユウキ