ロレーヌ・レヴィ監督

テルアビブで暮らすフランス系イスラエル人の家族とヨルダン西岸地区で暮らすパレスチナ人家族の間で、湾岸戦争の混乱に際し、病院の手違いで息子が取り違えられていたことが18年の時を経て判明する。この事実に直面したとき、両家族はどんな答えを出すのか? さらに高い壁と激しい確執で分断されてきた人種間の対立に変化は訪れるのか? フランスのロレーヌ・レヴィ監督が手掛けた『もうひとりの息子』は、そんな命題に勇気をもって挑んだ1作だ。

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パレスチナとイスラエルの問題は複雑でひと言では語りつくせない。あえてこの難題に取り組んだ理由をレヴィ監督はこう明かす。「私の母国フランスとイスラエルはひじょうに近い関係。また、私自身がユダヤ人ということもあり、イスラエルとパレスチナについて一度深く探究してみたい気持ちが以前からありました」。

その監督の深い洞察力と真摯な視点で語られる物語は、イスラエルとパレスチナの対立の根本をしっかりと見据えながらも憎悪や悲劇に集約しない。埋まらない人種間の溝、解決の見えない現実を前にしながら、希望と愛を見失わない人間の良心を見いだしていく。その様々な対立の問題を乗り越え、イスラエルとパレスチナの家族が導き出すひとつの和解は深い感銘を受けるに違いない。「取り違えにしても、紛争の問題にしてもネガティブではなく、楽観的といわれるかもしれませんがひとつ前を向いて見つめてみたかった。そこから見えてくる平和や和解の解決の糸口がきっとあるはずです」と監督は語る。

中でも印象的なのが母の子に対する愛。もうひとりの息子の存在を静かに受け入れ、互いを思いやる双方の母親の姿は深く胸を打つ。監督は「この母性をほんの少しでも男性が理解できたら(笑)、今ある社会がよりよい方へ向かうかもしれません」と語る。

最後に今回の日本公開について聞くと「うれしいのひと言!」と喜びを隠さない。「私は、この作品で自分の人生において忘れがたい幸せな瞬間を2度も迎えました。そのいずれもが日本でのことなんです。ひとつは昨年の東京国際映画祭でグランプリと監督賞をいただいたこと。もうひとつは、国連平和デーを記念した日本ユニセフ協会主催の上映会にこの作品が選ばれことで、このとき、来場したイスラエルとパレスチナの両大使が壇上で堅い握手を交わしたのです。会場が大きな拍手に包まれる、ほんとうに感動的な瞬間でした。日本の皆様には心から感謝しています」。

『もうひとりの息子』
公開中

取材・文・写真:水上賢治

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