新国立劇場オペラ「フィガロの結婚」(2013年10月) 撮影:三枝近志 新国立劇場オペラ「フィガロの結婚」(2013年10月) 撮影:三枝近志

新国立劇場オペラの人気プロダクション、『フィガロの結婚』が、10月20日に開幕した。

新国立劇場オペラ『フィガロの結婚』のチケット情報

モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』は、アルマヴィーヴァ伯爵の召使フィガロと、伯爵夫人の小間使いスザンナとの結婚を巡る騒動を描いた喜劇。スザンナに邪な思いを抱く伯爵、浮気者の夫に悩む伯爵夫人、小姓ケルビーノなど、登場人物は個性豊か。有名な序曲や、名アリア「恋とはどんなものかしら」「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」など、聴きどころも満載の傑作だ。

今回上演されたのは、アンドレアス・ホモキ演出の通称「段ボール・フィガロ」。2003年の初演以来、これまでに05年、07年、10年と新国立劇場で再演を重ねてきた。演出コンセプトは「見せかけの秩序からの決別」。『フィガロの結婚』は、誕生当時は度々上演禁止になるほど、貴族社会への痛烈な批判を内包しているが、ホモキの演出は時代的背景を除外し、より普遍性の高いテーマを全面に押し出す。

白を基調とした舞台には、段ボール箱が積み上げられ、他のセットは衣装箪笥ひとつだけ。最初はフラットに整った壁や床は、幕が進行するうちに、次第に傾いていき、舞台空間が崩壊していく。同様に衣装も変化。1幕では伯爵ら貴族はロココ風、フィガロたち従者は簡素な衣装だが、伯爵がすっかり権威を失う4幕では、貴族の象徴のカツラも脱ぎ捨てられ、全員が酷似した白い簡素な衣装に。もはや舞台上に社会的地位を表すものはなくなり、物語の最後には人間の本質だけが残ることを表現している。

開幕公演は、いま旬の若手歌手たちの好演が光る舞台に。伸びやかな歌唱で観客を魅了したタイトルロールのマルコ・ヴィンコ、20代でウィーン国立歌劇場にも出演するレヴェンテ・モルナール(アルマヴィーヴァ伯爵)、昨年のザルツブルク音楽祭『魔笛』の夜の女王役で喝采を浴びたマンデイ・フレドリヒ(伯爵夫人)、ウィーン国立歌劇場専属歌手のレナ・ベルキナ(ケルビーノ)。いずれ劣らぬ若手実力派揃いで、声量豊かでフレッシュな美声を披露。美男美女で舞台映えも申し分ない。

強力な外国人キャストに劣らず、カーテンコールでひと際熱い喝采を送られたのが、スザンナ役の九嶋香奈枝だ。新国立劇場研修所の第4期修了生で、これまで同劇場公演に多数出演してきた「生え抜き」の成長株。スザンナは全幕を通してほぼ出ずっぱりで、愛らしく利発なキャラクターで物語を動かしていくキーパーソンだが、ツボを心得た演技と伸びやかな美声で大役を見事に演じてみせた。今後の主役級への抜擢に期待を寄せたファンも多いことだろう。

また、歌手陣の好演を支えたウルフ・シルマーの指揮も見逃せない。2003年の本プロダクション初演も指揮した名匠は、序曲からエンジン全開で東京フィルをリード。明朗快活な音楽作りで、モーツァルトの楽曲の魅力をしっかりと引き出した。

新国立劇場オペラ『フィガロの結婚』の残る公演は、10月23日(水)・26日(土)・29日(火)の3公演。チケットは発売中。

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