“テストに出るから覚えておきなさい“っていう言葉はそもそも存在しない

――自分の言葉で、自分を振り返って書くということは、あまりしないですよね。

中野「だいたいテストというのは、外側から検査されるものです。その結果、あなたは合格ですとか、ここが足りませんよって指摘されるものですが、自己評価というのは自分自身で、自分の強みや足らないところを、自分の文章で認識するものなんです。自分自身を評価するのと、誰かに評価されるのとでは、まったく評価の質が違います」

――自分に甘くなることはないのでしょうか。

中野「極端に言えば、嘘をついてもいいんですよ。あんまりがんばってなくても“すごくがんばった”って書くこともできる。

そういう時はこっちも、“本当にそう?”って突っ込んだりはしますが、嘘を書く子はあまりいませんね」

――嘘を書く必要がないんでしょうね。

中野「そうなんですよ。他人と比較することの意味のなさがベースにあるんですね。点数がつくと、どうしても比べてしまうんですよね。そうすると、学んだことの質が変わってきてしまう。

ここの子たちは、知ることがおもしろいから勉強するんです。“テストに出るから覚えておきなさい“っていう言葉はそもそも存在しないんです。

この学校にはいわゆる定期テストのようなものがありませんから」

――なるほど。他人に評価されないということは、評価とは無縁ということではなく、とことん自分と向き合わなくてはならないということなのですね。

3年間クラス替えはしないので、同じメンバーで過ごす

©︎Jiyunomorigakuen

中野「よその中学校では、受験が終わると授業が成立しないなんて話も聞いたことがあります。が、自由の森の場合、卒業が近づけば近づくほど濃くなっていって、“終わりをどうつくるか”ということを、ひとり一人がよく考えているなあと思います。

中3でもそうです。びっくりするのが、中学の卒業式で泣く子がいるんです。

だって、春になったらまた同じ学校に来るんですよ。中には号泣する子もいて。高校の担任をしていたときには不思議に思っていたのですが、中学の担任を経験してわかりました。

自分たちの3年間が、ひとつのかたまりとしてあるんです。すごく濃い時間を過ごしているんですよね。3年間クラス替えはしないので、同じメンバーで過ごすんです」

――相手に自分のことをわかってもらいたいがために、つい手が出てしまう生徒もいるのでしょうか。

中野「それはいますよ。些細なことでケンカになることもあります。ですが、ケンカなどのトラブルがあった場合、本人から言ってくることもありますし、本人たちが内緒にしていても、まわりの子たちが教えてくれるので、何かが起きたときはわりと早くにわかります。

中1の時、本当にそりが合わなくてけんかばかりしていた生徒同士が、時間が経つにつれて相手のことを理解しようとするようになるんです。

自分のことわかってよって言うだけじゃダメだってことに気がつくんですね。

自分の足りなさに気づいたり、相手のいいところを見つけようとするし、ここにいると、そういうふうになってくるんですよね」

一方的に教わるのではなく、生徒たちの気づきが授業の原動力

――話し合いをよくすると聞きました。すごく民主主義が実現できていると思ったのですが。

中野「まだまだ話し合いのやり方には課題があります。たとえば発言の多い子の意見が通ってしまって、黙っている子の意見は反映されないことだとか、そもそも話し合われている内容について関心を持とうとしない人を議論にどう巻き込むかとか、いろいろあります」

――でも単純な多数決などでは決めないんですよね?

中野「そうですね、多数決で決めるとしたら、学園祭のクラス企画とか音楽祭の曲決めとか、そういう時くらいかなぁ」

――私の感覚だと、普通の学校で話し合いをして何か決める時は多数決、という印象なのですが、多数決って、全く解決にならないことも多いですよね。絶対、負けた方にしこりが残りますし。

中野「49対51とかだと微妙ですよね。そういう場合はまだ議論が足りないんです」

――議論をする時間はたくさんあるということですか。

中野「議論をすることで生徒たちが“楽しかった”と感じるのは、自分とは別の他者がこんなふうに考えていたのか、ということに出会う場面のようです。

他者を知る、自分と別の考えや感覚に出会うことが、その人に衝撃を生み出すようにも思います」

――日本人は議論が下手と言われますが、そういった話し合いの場を重ねることで、ディベートする能力が培われるということもあるんでしょうか。

中野「ディベートする能力が培われるかはわかりませんが、自分の考えをはっきり述べる力は自然に育ちます。

授業の場面をひとつとっても授業者から一方的に教わるのではなく、生徒たちの考えや疑問、気づきが授業の原動力です。

それに、発言しない子は何もしていないわけではなくて、いろんな人の意見を吸収して聞いているんです。

だからいろんな人の発言から、いろいろなものが体の中に入っていくという経験は、日々していますね」

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