槙野綾役の佐久間由衣 (C)NHK

 今月からNHKで始まった連続テレビ小説「らんまん」。明治から昭和にかけて活躍した“日本の植物分類学の父”牧野富太郎博士をモデルに、愛する植物のため、激動の時代をいちずに突き進む主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の波瀾(はらん)万丈な生涯を描く。本作で万太郎の姉・槙野綾を演じるのは、「ひよっこ」(17)以来、2度目の朝ドラ出演となる佐久間由衣。第3週からの登場を前に、作品に懸ける意気込みを語ってくれた。

-2度目の朝ドラ出演が決まったときの気持ちは?

 「ひよっこ」を経験して、もっと自分が力をつけてまたこの朝ドラという場所に帰ってこられたらいいなと思って巣立っていったので、そのような大事なドラマからまた改めてオファーを頂けたことが、うれしかったです。その上で、最初に読ませていただいた「らんまん」のあらすじがすごく面白くて。どちらもうれしく、「これは絶対にやらせていただきたい!」と思いました。

-ご自身が演じる綾について教えてください。

 綾はすごくしっかりした女性です。周りの人をきちんと見て、てきぱきと物事を進めることもできる。世話焼きなところは自分に似ていますが、私は綾ほどしっかりしていないので、その生き方も含めて尊敬します。また、意志も強くて、万太郎をきちんと叱ったり、自分の思っていることをきちんと伝えたりすることもできる。私は人を叱った経験があまりないので、万太郎を叱るとき、怒るだけでなく、そこにどう愛情の深さを加えて表現したらいいのかが、演じる上での悩みどころです。

-万太郎役の神木さんの現場での印象は?

 神木さんはいつも自然体で、常に少年の心を持ったまま現場にいらっしゃいます。なので、万太郎に重なると感じる瞬間も多く、そこから綾と万太郎の関係性のヒントを頂いている気がします。おかげで、お芝居について話し合うというよりも、お互いに現場の空気を感じながら、いい雰囲気でお芝居をさせていただいています。

-クランクイン前に万太郎のモデルとなった牧野富太郎博士の出身地・高知を訪れたそうですが、演技のインスピレーションを得たことはありますか。

 クランクイン前に3日ほど高知へ行き、牧野博士が幼少期を過ごされた佐川町を中心にいろいろな場所を回らせていただきました。そのときに感じたのが、高知の女性は本当に力強く、元気でパワーがみなぎっている方が多いな…ということです。なので、演じるに当たって、強弱をつけるときは弱くならないように、どちらか悩んだときはエネルギーを出す方向で、という意識を常に持つようにしています。

-そのほか、高知の印象を教えてください。

 当時と今とでは違う部分もあると思いますが、寒暖差が大きく天気も変わりやすい土地柄のおかげか、自然の豊かさをすごく感じました。そういう環境だからこそ、いろんな植物が育ちますし、そういう自然に囲まれて暮らしているからこそ、人間もたくましくなるのかなと。地元のスーパーにも行きましたが、ほとんどの野菜が高知県産だったことにも驚きました。その土地の中で自給自足のような生活が成り立つのは、関東で暮らしている私にはとても想像できません。そこもすごく魅力的でした。

-「ひよっこ」以来、2度目の朝ドラ出演になりますが、当時と比べてご自身の成長を感じる部分はありますか。

 「ひよっこ」のときは、闘牛みたいに突っ走るだけで精いっぱいだったんです。でも今回は、周りのスタッフさんや役者さんと「あっちがいいかな? こっちがいいかな?」といろいろなことを話し合いながら、お互いに意見交換をさせていただく余裕を持てるようになった気がします。ただ不思議なもので、昨日できたお芝居が今日はできないということもあるので、やっぱりお芝居はその場の生のものなんだなと思いながら日々の撮影を必死に乗り越えている感じです。

-大事にしていた朝ドラの現場に向き合う気持ちに変化はありましたか。

 全力で挑む気持ちは「ひよっこ」の頃から変わっていません。ただ、半年も一つの役を演じさせていただく機会はなかなかありません。だからこそ、「朝ドラだから、こうしなくちゃ」という固定観念に捉われず、自由に楽しむ余裕を持ちつつ、一度きりの綾という役を後悔のないように大事に演じていきたいと思っています。

-「造り酒屋の跡取り」という立場上、好きな植物の研究が思うようにできない万太郎や「女だから」という理由で家業の酒造りに携われない綾は、自由民権運動との出会いをきっかけに、自分の生き方を見つけていくようですね。そんな綾の生き方について、どんなことを感じていますか。

 脚本家の長田(育恵)さんとお話ししたとき、「綾も万太郎も、自然に例えると太陽に向かって伸びる植物のようなイメージは同じだけど、綾は自然の中でいうと火や土、万太郎は流れる水のようなイメージ」とおっしゃっていたんです。それを踏まえた上で、自分ではどうすることもできない“しがらみ”や時代の流れの中で、起きてしまったことや自分の宿命に対して、どう落としどころを見つけるのか。その過程も含め、綾の生き方には、きちんと筋を通した上で、決してネガティブにならず、「どんなに大変でも、悲劇のヒロインにはならない」というポジティブで力強い人柄が表れているように思います。

-その辺は視聴者にとっても見どころになりそうですね。

 そうですね。いつの時代も、自分を縛るしがらみみたいなものはあると思うんです。植物学の道を志す万太郎と同じように、綾にも1人の人間としての成長につながり、酒造りに対する思いをより強くするような出来事があります。そこはぜひご覧いただきたいエピソードですし、そういうものを乗り越えていく綾の姿を通して、前に向かって進んでいくエネルギーを皆さんに届けられたら…と思っています。

(取材・文/井上健一)