L'Equipe(レキップ) vol.1『秋のソナタ』  撮影:宮川舞子 L'Equipe(レキップ) vol.1『秋のソナタ』  撮影:宮川舞子

10月25日、東京芸術劇場・シアターイーストにてL’Equipe(レキップ) vol.1『秋のソナタ』が開幕。世界中にたくさんのファンをもつスウェーデンの監督・演出家、イングマール・ベルイマンの名作映画を舞台化する試みで、佐藤オリエと満島ひかりのふたり芝居。開幕前日のゲネプロに潜入した。

『秋のソナタ』チケット情報

ノルウェーの田舎町にある静かな牧師館。ここで夫と暮らすエヴァ(満島)は、7年間会っていなかった母親を招待する。国際的に活躍するピアニストの母・シャルロッテ(佐藤)は、長年共に暮らした恋人を亡くしたばかりだった。再会を喜び合うふたりだが、もうひとりの娘・重病のヘレナがいることを知り苛立つ母。次第にエヴァと母親の思いがむき出しになっていく……。

寒い地方の質素な牧師館をあらわすように、舞台上には大きなガラス窓とドア、そしてたくさんのろうそくが置かれたミニテーブル。中央には白い布で覆われた大きな物体が。暗闇にぼんやりと薄明りが見えると、奥からエヴァを演じる満島がゆっくりと歩いてくる。黒く地味なワンピースに厚手のタイツ。ひっつめ髪でいかにも静かに暮らしている様子が伺える。彼女が真ん中の布をめくるとそこは大きなテーブル。落ち着いた声音の満島自身のナレーションは、母に宛てた手紙を読み上げる。すると、そこに佐藤演じる母・シャルロッテが。エヴァとは対照的な鮮やかな緑のツーピース、ヒールのある靴に赤い口紅。一気に劇場の空気が変わり、明るいけれどもどこか空疎な言葉がシャルロッテの口から次々に出てくる。お互いの気持ちを探りながら表面では再会を喜び合うふたりの声音・表情にぐっとひきつけられる客席。

舞台上にたったふたり。エヴァが世界的なピアニストである母の前で緊張しながらたどたどしくピアノを弾く場面はとくに印象に残る。無音でふたりのレベルの差を、それによって巻き起こるふたりの胸の中の嵐を見せつける演出。やがて深夜、お互いの思いをぶちまけるシーンではまさにふたりの女優ががっぷりと組み合い、火花を散らしあう姿に、恐れすら感じた。

1時間半の芝居の間、満島が演じるエヴァは数えきれないほど母親に「ママ」と呼びかける。愛しているのに愛されない、愛と憎しみが同居した悲痛な「ママ」が耳に残って離れない。劇場を出て外の寒さが頬を突き刺すとき、観客は再びあの母娘に思いを馳せる。

公演は10月25日(金)から11月3日(日・祝)まで。チケット発売中。

取材・文:釣木文恵