ムーティ、ヴェルディを語る 写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:堀田力丸

ヴェルディ生誕200年を記念した東京・春・音楽祭 特別公演のために、ヴェルディのスペシャリストとして名高い指揮者リッカルド・ムーティが来日。同公演開催に先駆けて、10月26日にBunkamuraオーチャードホールで特別講演「ムーティ、ヴェルディを語る」を行った。

「リッカルド・ムーティ」の公演情報

台風の影響が心配されたが、午後から雨も上がり、多くのヴェルディファンが会場に詰めかけた。ムーティの音楽家としてのキャリア、ヴェルディを生涯の作曲家と位置づける理由がユーモアたっぷりに語られたほか、ムーティ指導の下でのふたりの歌手による『椿姫』の二重唱演奏も披露され、充実した講演となった。

指揮者として初めてヴェルディのオペラを指揮したフィレンツェ五月祭での『群盗』で、自分自身の一生を変える出来事があったというムーティ。与えられた楽譜は歴代指揮者の使っていたものだったが、ところどころ貼り合わされてカットされている場面があることを知り、疑問を感じたという。カットされている理由を音楽祭に尋ねたところ「これまでそうやって演奏してきた」との答えが。これによってマエストロの“楽譜に忠実に演奏する”という戦いが始まったと話す。

後半では、オペラ『椿姫』の第2幕1場のジェルモンとヴィオレッタの二重唱を指導しながら、指揮者の役割についての持論を披露。「ヴェルディの音楽にはすでに演出が書かれている」というムーティは、言葉や表情や音楽の間について細かく指導し、「楽譜に忠実に演奏するということは、言葉の裏の裏をきちんと理解した上でなければならない」と熱弁をふるう。また、過度な演出への苦言をユーモアたっぷりに話しながら「ヴェルディ=偉大な演出家」の意味を教えてくれた。

自らピアノを弾きながら、ひとつひとつの言葉の意味やどんな場面であるかを考えさせながら歌わせる指導は、段々と熱を帯び、講演は予定より1時間もオーバーして終了。終演後もサインを求めるファンの長蛇の列に温かく応えたマエストロ。ユーモアたっぷりのトークと熱心な歌唱指導であっという間に感じられた講演は「イタリア人として真実のヴェルディ像を演奏したい」というムーティの40年以上にわたる熱い思いが込められていたのだろう。

リッカルド・ムーティが指揮する東京・春・音楽祭 特別公演「ムーティ conducts ヴェルディ」は、10月30日(水)・31日(木)にすみだトリフォニーホールで開催。チケットは発売中。

また、来年2014年の5月から6月にかけて、終身名誉指揮者を務めるローマ歌劇場を率いて来日公演を開催。ヴェルディのオペラ『ナブッコ』と『シモン・ボッカネグラ』を指揮する。