イギリスが生んだ鬼才マーティン・マクドナーの最新作『ハングマン』が日本初演される。演出は、これまでに『ウィー・トーマス』『ピローマン』『ビューティー・クイーン・オブ・リナーン』と、3作のマクドナー作品を手がけた長塚圭史だ。

舞台『ハングマン』チケット情報

長塚はマクドナー作品の魅力をこう語る。
「マクドナーは非常に古典的な演劇の手法を取りながら、彼自身も観客も今までに出会わなかったような感情に陥ることを目指して書いていると思います。非現実的で、キャラクターもひとつひとつ“盛って”いるのですが、そこからリアリズムが出てくる。リアリズムとファンタジーの粉と粉のかけ具合が見事なんです」

1971年生まれのマクドナーは長塚にとって「ある種、同世代の劇作家」。「『ウィー・トーマス』の日本初演時には彼も観に来たのですが、僕と映画の話などで盛り上がり、国は違うけれど同じものを見ているという感覚になりました。『ピローマン』以降、彼がぱったり書かなくなり、映画のほうに行き始めた時は『せっかく劇作家なのに!』と無性に腹が立って(笑)。最近、『スリー・ビルボード』というとんでもなく良い映画を撮って『これがやりたかったのか』と思いましたけど」

『ハングマン』はそのマクドナーが約8年ぶりに書いた新作だ。死刑制度が廃止された1965年、イギリス北部の町オールダムで絞首刑執行人=ハングマンだったハリーが経営するパブに、ロンドン訛りの謎の男ムーニーが現れたことから、物語は奇妙な方向へと転がっていく。

「翻訳の小川(絵梨子)さんとも話しているのですが、『ハングマン』には解明できないところがいくつもある。どこまでが本当でどこまでが嘘なのかわからないまま終わる、大人っぽい作品です。絞首刑の終わりという時代を取り上げて、現代に繋がる世界の矛盾や得体の知れなさを描いたのは、流石だなと思います」

ただし、日本で上演する上での難しさもある。
「マクドナー作品ではしばしば、地域性が笑いに変えられる。少し馬鹿にしているようなところもあります。この『ハングマン』も、英語で上演すると、イギリス北部の訛りとロンドン訛りの違いに可笑しさが表れるのですが、日本語ではそうもいきません。それを俳優の居住まいや振る舞いでどう表現できるかが鍵になりそうです」

具現化する出演者は、田中哲司、大東駿介、秋山菜津子ら、個性豊かな実力派俳優陣。
「イギリスのパブという、日本人にはややこしい設定だからこそ、実際のパブ以上にパブというか(笑)現実以上に現実に近づけるつもりで作りたいですね。マクドナー作品には色々な要素があるけれど、作る側はコメディーとしてできるだけバカバカしく作って、お客さんがその先にある風刺や批評性を受け取ってもらえればいいのではないかと僕は思っています。腕の良い役者さんたちと、作品に描かれた笑いや間合いを共有し、この戯曲の面白さを大いに伝えたいですね」

5月16日 (水)から東京・世田谷パブリックシアターにて上演。

取材・文:高橋彩子