『四十九日のレシピ』を手がけたタナダユキ監督

永作博美主演の映画『四十九日のレシピ』が公開される前に、監督を務めたタナダユキがインタビューに応じた。

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本作は伊吹有喜の同名小説を映画化した作品。母が亡くなり、母から大切なことを聞きそびれてしまった娘(永作)と、妻に先立たれ放心状態の父(石橋蓮司)が、突然訪ねてきた少女(二階堂ふみ)と日系ブラジル人(岡田将生)の青年と共に母の四十九日まで不思議な共同生活をおくる姿を描く。

本作は母が亡くなったことを機に、父と娘が亡き母の人生を知り、それぞれが新たな一歩を踏み出すまでを描いた作品だが、“家族の絆”や“家族は一緒に”というテーマを描いた作品ではない。原作はファンタジー的要素もあるが、タナダ監督は「映画にする際には“家族を救うのは必ずしも家族でなくてもいいんじゃないか”という側面を強くしました」という。「家族って美しかったり、素晴らしかったりするものではなくて、実は煩わしかったりするものですよね。“家族と暮すのが一番”と言われがちですけど、この映画では親が子どもを独り立ちさせ、自分も独りで生きる覚悟を持ち、子供は親の思いを受けて自分の人生の責任は自分で取るという、その部分をしっかりと描きたいと思いました」。

映画では、多くの人の人生の中に登場する母・乙美のこれまでの人生と、これからどう生きるか迷う娘・百合子の姿が対照的に描かれる。「乙美はいい意味で“空気を読まない”人。落ち込んでいる人に声をかけると煩わしがられるかもしれない。でも相手の本心なんてわからないわけで、そんな時乙美は迷わず声をかけるタイプ」。一方の百合子は周囲の空気を“読みすぎ”てしまい、自身の本心を打ち明けることができない。劇中では永作がそんな百合子の心情を見事に表現する。「永作さんは微妙なニュアンスの芝居を徹底してやってくださいました。きちんと計算がありつつも、ちゃんと感情で動いてくださるので全面的に信頼していました。物語的には、若いキャラクターが目立つのかもしれないですけど、それは永作さんや石橋さんが中心にしっかり立っているからだと思います」。

本作のラストには深い感動が待っているが、タナダ監督は音楽やセリフで観客の感情を強引に誘導することなく、俳優の演技と最小限のセリフだけで深い余韻を描いている。「こういう話なので、もっと“盛る”ことは簡単にできたんですけど、今回は引き算にしようと。『そこまで説明しなくても絶対にわかるはず』と思いましたし、観客の方を信頼する映画を作りたかったんです」。

演技力のある俳優と抑制された演出。『四十九日のレシピ』は観客がスクリーンをじっくりと見つめ、対話をしながら深いドラマを感じられる作品に仕上がっている。

『四十九日のレシピ』
11月9日(土) 新宿バルト9・有楽町スバル座ほか 全国ロードショー