マイケル・B・ジョーダン

 名世界チャンピオンとなって引退したアドニス・クリードの前に、刑務所から出所した幼なじみのデイムが現れる。アドニスは封印してきた自らの過去に決着をつけるべく、デイムとの戦いに挑む。「ロッキー」シリーズを継承したボクシング映画「クリード」シリーズの第3作『クリード 過去の逆襲』が5月26日から全国公開される。前2作に続いて主人公アドニスを演じ、今回は監督も兼任したマイケル・B・ジョーダンに話を聞いた。

-あなたが日本のアニメが好きというのは有名な話ですが、好きになったきっかけと好きな作品を教えてください。

 一番好きな子どもを選べというのと同じことだから、それは聞いちゃ駄目です(笑)。小さい頃は年上の兄のような人に憧れて、何がはやっているのか、どんなコロンをつけているのか、靴は…何てチェックをしていました。よく、その人たちと一緒に床に座ってカンフー映画やレーシングカー物とか、アニメや漫画を見ていました。当時のアメリカではなかなか手に入らなかったので、ショッピングモールの露店で5ドルぐらいでゲットしたDVDをみんなで見ていました。それが入り口です。その中で、自分にとって一番インパクトがあったのは『NARUTO -ナルト-』と『ドラゴンボールZ』です。

-クリードを演じるのは3回目でしたが、監督としてボクシングシーンをよりリアルに見せるために工夫したことがあれば教えてください。

 このシリーズに関しては、観客がボクシングのシーンを見て、評価を決めるところがあるとは思っていました。ただ、見せ方には限度があるので、いろいろと考えました。今回はIMAXカメラを使ったことで、より多くの情報量が取り込めたので、それが大きな助けになりました。もう一つは、ボクシングは、ただ物理的に「僕が殴って、相手が殴って」というものではないので、何を考えているのかという思考の部分を、視覚的な言語で表現しました。これはアニメでよく使われる手法です。

 ファイトシーンでは三つ重要なことがありました。一つ目はボクシングの試合のエレガンス(知性)を出すこと。二つ目はアドニスとデイム(ジョナサン・メジャース)との闘いの荒々しさから、ボクシングの暴力性や危険性を感じさせるということ。三つ目は、それらを全て混合させてさらに感情を乗せること。それは2人のとてもパーソナルな部分でもあります。なので、知性と思考と、わなの仕掛け方、そして2人のパーソナルな関係性がきちんと描ければ、ほかのものとの差別化ができると考えました。

-監督としてこだわったところを教えてください。また、初監督をするに当たって、ライアン・クーグラー監督から何かアドバイスはもらいましたか。

 もちろん、ライアンからはいろいろなアドバイスをもらいました。今回は初監督だったので、デンゼル・ワシントン、ブラッドリー・クーパー、クリストファー・ノーラン、そしてライアンと、友人の監督に電話をして、何を注意すべきかを聞きました。

 こだわりは全部です(笑)。最初の『ロッキー』(76)から数えると9本目の作品ということで、みんなが、そんなに大層なものや目新しいものを期待しているわけではないことは分かっていました。なので、逆にこれは個人的なチャレンジだと受け止めて、みんなが期待しないのは間違っているということを証明したいと思いました。

 感情面やキャラクターの面では、家族のストーリーテリングに関しては、しっかり把握できていると感じていましたが、ロッキーからクリードとなると、どうしてもボクシングのシーンを期待されます。だからそこをしっかりと描かなければならないと思いました。特にモンタージュ(断片を組み合わせて、一つの場面を構成すること)は、撮影しながら見えてきた部分だったので、なかなか見極めるのが難しかったです。

-今回は、男性らしさの呪縛や過去のトラウマとの対峙(たいじ)というのが大きなテーマでしたが、ご自身にもそういう経験はありましたか。

 それは世代的なものでもあると思います。この映画のアドニスも自分の父たちも、男だからということで自分の感情を語るべきはないと思っています。それは父から子へと受け継がれます。特に黒人のコミュニティーではそれが強いのですが、世界中の多くの男性が、泣くべきではないとか、感情を見せることは弱さを露呈することだと思っているのではないでしょうか。だから、この映画では、そうしたことを話さないと、言葉にしないと、自分の愛する人たち、家族、パートナー、子どもたちにどんな影響を与えるのかということを描きたいと思いました。

 実際、自分の感情を吐露することやシェアすることは、別にその人が弱いからというわけではありませんし、男らしさが減るわけでもありません。逆に、強さの証しだと思います。特にボクシングというスポーツは、マッチョなものとつながっているところがあるので、そうしたことを語る場としては最高だと思いました。また、アドニスの柔らかい部分を新たな側面として見せたいとも思いました。

-監督をしたことで、俳優としての自分に何か影響する部分はありましたか。また、今後撮ってみたい映画はありますか。

 次回作として、二つイメージがあります。キャラクターに引っ張られるような、映画祭系の割と小規模なもの。また、一つの世界を一から作るタイプの映画が大好きなので、それは大掛かりなものになると思います。方向性としてはそのどちらかだと考えています。今回、学んだことは、ペースとリズム、特に編集作業でした。ポストプロダクション(撮影後の仕上げ作業)は全く違う映画を作っている感覚で、「もうワンテイク撮っておけばよかった」とか「もう少しカメラを寄せていたら…」などと思ったりしました。次の映画を撮影するときは、俳優としてそれを考えると思います。監督が使えるオプションをたくさん提供したいと。そうすれば編集の段階で選択肢が増えることを知りました。

-シリーズ3作で主演し、今回は監督までしたわけですが、あなたにとって、「クリード」というシリーズ、アドニスというキャラクターはどんな存在になりましたか。

 すごい質問ありがとうございます。自分のレガシーの一部になったと思いますし、自分にとってとても重要なものです。子どもたちが「クリード」を見て、アドニスに憧れてくれます。中には「ロッキー」を見たことがない子どもたちもいるので、「ロッキー」が初めて登場してきたときの子どもたちやファンの気持ちがどんなものだったのかということに思いをはせます。約50年間、今でも愛され続けている「ロッキー」の、自分にとってのバージョンが「クリード」なんです。だから自分にとっては特別な存在です。今はその世界をさらに広げる機会があって、アニメ、漫画、リミテッドシリーズ、テレビのスピンオフなど、いろんな新しいストーリーテリングの方法があるので、「クリード」をさらに広げていきたいと思っていますが、くさいことはしたくありません。なので、もしおかしいと思ったら、連絡してください。すぐにやめますから(笑)。約束ですよ。

(取材・文/田中雄二)

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