公取委の立ち入り検査を受けたアマゾン

3月15日、食品や日用品などの納入業者に値引き額の一部を補填させていた疑いで、インターネット通販大手・アマゾンジャパンが公正取引委員会の立ち入り検査を受けていたことがわかった。この問題では家電流通の現場からも、「同様の内容の説明会があった」との声があがっている。

「アマゾンバランスの導入について」

BCNの取材に応じた家電業界関係者は、自社のアマゾン担当者が2月下旬、アマゾンジャパンの本社がある東京・目黒のビルに呼び出されたことを明かした。

「アマゾンバランスの導入」と題された会場には、家電メーカーを含む多数の取引先が集まった。会のなかでは、「ベースコープ」と呼ばれる負担金の説明があった。これが、メディア各社の報道でキーワードに上がっている「協力金」にあたるものだという。「ベースコープ」は、アマゾンが自社で仕入れた商品を販売する商流に関するもので、第三者の業者がアマゾンのプラットフォームを利用して販売する「Amazonマーケットプレイス」は対象外だ。

関係者は次のように語る。「物流費の値上げの補填というよりも、アマゾンはマーケティング費用を投じているので取引業者にも協力をしてほしい、という内容として受け止めた。具体的には、アマゾン全事業部の全取引先が対象で、仕入れ金額の5%を支払うという内容で、開始時期は未定とのことだったが、担当者によれば4月から導入される可能性が高いという説明だった」。

この仕入金額の5%の負担が「ベースコープ」を意味し、料率はアマゾンの事業部(商品カテゴリ)により異なる。ほかにもいつくかの条件が示され、支払いに応じれば「戦略的販促広告」として、サイト上で目立つスペースに商品を掲載するなどの優遇が受けられるようだ。

関係者が問題視するのは「賛同いただけない場合、各事業部のマネージャーに相談し、今後の取引方法について討議する」という、「ベースコープ」の支払いを断った時の対応についてだ。「討議といっても、EC最大手のアマゾンを相手に、納入業者が対等に議論するのは難しいだろう」。

販促費用を投資するアマゾンの言い分

もっとも、アマゾンにもマーケティング費用を投じているという言い分があり、説明会では具体的な数字が列挙された。売上比の約3割に相当する1兆円以上をマーケティングに投下しているほか、テクノロジーやコンテンツ、マーケティング、フルフィルメント(物流)など、各分野への投資の具体的な内訳も示された。

その投資の効果もあって、消費者が買い物する際にアマゾンで検索する率が、15年度の27%から17年度の55%まで、2年で倍になったという論理も示された。ちなみに、海外では75%という数字も示されたという。

こうしたアマゾンの具体的な数字に基づいた条件の提示に対し、アマゾンとの取引から手を引きはじめている大手家電メーカーもある。「大声では言えないが、心中では拍手喝采したい」と、この関係者は取引を断ったメーカーにエールを送る。

「自社の販促に投じるなら協力したい」

一方で、別の家電流通トップは「報告は受けているが、当社が納入する製品に関する販促費用なら協力したい。ただし、すべて一律で負担してほしいというなら話は別だ」と、あくまでも自社製品に関する部分で協力するというスタンスだ。ただ、「当社の売上構成比でもアマゾンは上位になっているのも事実」と、アマゾンが経営戦略上無視できないほどに存在感を増していることに警戒を隠さない。

さらに別の家電流通の経営企画マネージャーは「アマゾンと取り引きはあるが、報道のような話は受けていない」と語るなど、すべての家電関連企業が対象ということでもなさそうだ。

アマゾンジャパンは昨年6月も、Amazonマーケットプレイスの出品企業に対し、アマゾンでの販売価格を他社での販売価格と同等か、それよりも安くするよう求めた疑いがもたれ、「独占禁止法違反被疑事件」として公取委の立ち入り調査を受けた経緯がある。このときは審査は終了となり打ち切られた。

取材当時、ある大手家電流通トップは「公取委の価格拘束の目が、メーカーからネット通販企業に移ったということ。今後は『優越的地位の濫用』の認定も視野に入ってくるのではないか」と、今回のような事態になることを予想していた。公取委の立ち入り検査の行方に、家電関係者の関心の目も注がれている。(BCN・細田 立圭志)