演劇集団キャラメルボックスの最新公演『夏への扉』が、3月14日、東京・サンシャイン劇場で開幕した。
ロバート・A・ハインラインの同名SF小説の舞台化。初演は2011年、権利関係の困難を乗り越え“世界初の舞台化”となったことでも話題を呼んだ。今回はキャストの大半が変わり、フレッシュな座組での再演となる。
1970年のアメリカから物語は始まる。大学で機械工学を学び、親友とふたりで会社を設立したダニエル・デイヴィス(畑中智行)は、婚約者と親友に裏切られ会社も、開発したロボット「ハイヤードガール」の権利も、全てを失ってしまう。彼に残されたのは飼い猫のピート(筒井俊作)だけ……。ダニエルは裏切り者ふたりへの復讐を誓うが、逆に彼らの手にかかり30年間コールドスリープで眠り続けることに。再び目覚めたのは2000年、憎きふたりの消息はわからないどころか、不可解な出来事が次々に起こり……。
原作を知らずこの舞台を観たなら、最初はディテールのはしばしに「あれ、この感じどこかで知っているかも?」となるかもしれない。『夏への扉』が発表されたのは1956年、今から60年以上前だ。つまりこの作品こそが“SFにおける古典”であり、“元祖”というわけなのだ。しかし、この作品が名作たるゆえんは「挫折したひとりの青年がいかに再起するか、しかも起死回生の一手で」というストーリーの面白さだろう。スピーディーに展開されるリベンジの鮮やかさ、時空を越えて成功させる伏線回収の見事さは、まさに“爽快”のひと言!
初演からの続投でダニエルを演じる畑中は、どん底まで落ちながらも周囲の支えもあり、見事に復活を果たす主人公を好演。物語が進むにつれ、ダニエルの復讐は「人」へ向かうのではなく、彼がリベンジを果たすのは、“自分自身の人生”であったことがわかる。畑中の繊細な演技により、ダニエルの成長譚でもあることを改めて気付かされた。愛猫・ピートをユーモラスに演じた筒井とのコンビネーションも絶妙で、ふたりでストーリーテリングを巧みに担ってゆく。
ダニエルに好意を持ち彼の味方となるリッキイを演じたのは木村玲衣。11歳から21歳まで、少女から大人の女性への演じ分けを見事にこなす。ダニエルを裏切る婚約者ベルを演じた原田樹里は、バービー人形のようなビジュアルや今までにない“悪女”っぷりで存在感を放つ。
初演時は公演中に東日本大震災が発生。劇団としても満を持しての再演であり、“リベンジ”でもある。新たな一歩を踏み出すことが多いこの季節に、前へと向かう原動力を貰えるような作品だった。
東京公演は3月25日(日)までサンシャイン劇場、関西公演は3月28日(水)・29日(木)に兵庫・明石市民会館大ホール アワーズホールにて上演。
取材・文:川口有紀