宇佐美ゆうを演じる山谷花純 (C)エンタメOVO

 NHKで放送中の連続テレビ小説「らんまん」。“日本の植物分類学の父”牧野富太郎博士をモデルに、愛する植物のため、明治から昭和へと激動の時代をいちずに突き進む主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の波瀾(はらん)万丈な生涯を描く物語だ。東京大学で植物学の研究に打ち込む万太郎を温かく見守るのが、万太郎が暮らす長屋の個性豊かな住人たち。その1人、宇佐美ゆうを演じているのは、昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源頼家の側室・せつ役で強い印象を残した山谷花純。これまでのキャリアを振り返りつつ、三度目の朝ドラ出演となる「らんまん」への思いを語ってくれた。

-ドラマを見ていると、長屋の住人たちの温かな雰囲気が印象的です。現場の様子はいかがですか。

 ドラマそのままで、和気あいあいです。長屋の住人を演じる方は、下は5歳の子から上は私の親より年上の方まで、幅広い年齢層が集まっているんですけど、言葉を交わさなくても、みんなで同じゴールを見すえて進んでいけるすごくいい関係性だと思います。現場でも“チーム長屋”と呼ばれていますし。神木さんも、さりげなく気配りしつつ、みんなを優しく包み込んでくれるような座長で、現場にいらっしゃると、笑顔があふれて雰囲気がすごく明るくなるんです。

-すてきなチームワークですね。

 熱い友情と人を思う心はある長屋の雰囲気は、物語の中でいい箸休めになると思います。だから、出てきたときに「待っていたよ」と皆さんに言っていただけたら、“チーム長屋”としてはすごくうれしいです。

-山谷さんは今回、「おひさま」(11)、「あまちゃん」(13)に続いて三度目の朝ドラ出演になりますね。

 この10年、朝ドラのオーディションに落ち続けたことで、出演できるありがたさを身にしみて感じました。「おひさま」のときは朝ドラが何なのかも知らず、初めて朝ドラのオーディションを受けた「あまちゃん」ですぐに合格したので、出演するのがどんなに大変か分かっていなかったんです。

-そうすると、朝ドラに出演する実感を今回初めて味わっていると?

 そうですね。だから、すごく楽しいです。「あまちゃん」のときは、「好きなお芝居ができて楽しい」というだけで、現場の進め方などは気にしていなかったんです。まだ10代だったので時間制限もあり、現場にあまり長くいられませんでしたし。今思えば、もっと成長できるチャンスだったのに、もったいないことをしたなと。それを取り戻そうとして、今回は記憶に強く焼きつけるくらい、今までで一番濃い時間を過ごしています。

-ちょうど今、BSプレミアムで「あまちゃん」を再放送していますが、山谷さんの登場は第54回からなので、「らんまん」の出演時期と重なりますね。

 そうなんです。現場でも流れているので、(「あまちゃん」主演の)のんちゃんにも、こないだ「映っているよ」とLINEしました(笑)。10年前の作品ですが、過ぎてみるとあっという間で、私自身はあまり変わった気がしません。でも、視聴者の方は細かいことに気付いてくださるので、何か変化に気付いたら、教えてもらえるとうれしいです。

-ところで、山谷さんが俳優の道に進んだのは、自分でオーディションを受けたことがきっかけだそうですが、子どもの頃から俳優を目指していたのでしょうか。

 最初はテレビの仕組みを知りたかったんです。私、テレビは全部生放送だと思って見ていたんですけど(笑)、どう考えても無理なので、その謎を解き明かすには、自分がテレビの中に入ればいいんだと思って。そうしたら担任の先生が、エイベックスのオーディションを紹介してくれたんです。「女優」という職業も知らなかったので、何となくイメージできた「モデル」で受けたら、身長が低かったので、合格したら演技の方になっていて(笑)。

-それはいつ頃ですか?

 小5か小6ぐらいのときです。最初は子役としてスタートさせていただいたら、お芝居のレッスンもほとんど受けてなかったのに、ぽんぽんと出演が決まったんです。地方から出てきたあか抜けない感じが、新鮮だったのかもしれません。その後、中学1年生で『告白』(10)という映画に出たとき、もの作りの面白さを知り、いろいろと勉強するようになって。そこが、私にとってお芝居を好きになった最初のターニングポイントだったと思います。それから高校を卒業して親元を離れ、上京したことをきっかけに、きちんと仕事として向き合うようになりました。

-自分の好きなことを見つけて仕事にできるのは幸せなことですね。では、今回の「らんまん」に対する意気込みは?

 おゆうさんは自分の実年齢より4つか5つぐらい上の設定ですし、お着物を着て、かつらをつける役を頂けたことで自分の成長も実感できたので、すごくうれしいです。ただ、おゆうさんの候補は他にもたくさんいたはずなので、選んでいただいたからには、その方たちの分まで頑張る責任があると思っています。全ての役がそうですが、すごくシビアな世界なので、ふわふわしていたらすぐに置いていかれてしまいますし。実際、ふわふわしていたときは、いろんな人たちに追い抜かれていきましたから。

-「ふわふわ」を脱するきっかけは何だったのでしょうか。

 去年の「鎌倉殿の13人」が大きなきっかけだった気がします。それまでは似たような役が続いたこともあり、ある程度どんな役もこなせるようになってきて、自分の中でマンネリ化していた部分があったんです。そんなとき、初めて出た大河ドラマで、「右も左も分からない」という状況を経験して。所作も一歩歩くだけで「違う」と言われ、せりふのイントネーションも、着物のさばき方も…。「ただそこにいること」すらできなかったんです。それまでは、たとえ緊張していても、衣装を着てとりあえずせりふを言えば成立したんですけど、そのせりふすら言わせてもらえない。そんなことは初めてで。

-不安やプレッシャーも大きかったのでは?

 ただ、そうそうたる先輩方がいる中で、そういう状態になったとき、私の中で不安よりも「楽しい」という気持ちが上回ったんです。「まだまだ成長できる余地があるんだ」と思って。所作指導の先生もすごく厳しかったんですけど、毎回「次は何を言われるかな」と現場に行くのが楽しみになって。結果的に、その先生とも仲良くなりましたし。

-そうすると、「鎌倉殿の13人」が新たなスタートになったと?

 30代に向けての第一歩といった感じで、ターニングポイントになりました。大河に出られたことが、自分の中で一つの自信にもなったと思います。それから、気持ちの切り替えがきくようになり、小さなことで悩まなくなりました。

-それが「らんまん」の出演につながったのかもしれませんね。ところで、そもそもの、「鎌倉殿の13人」出演の経緯は?

 「誰かが、見ている」(prime video配信中)という作品で、三谷(幸喜/脚本と演出を担当。「鎌倉殿の13人」の脚本)さんと初めてご一緒したんです。それ以来、三谷さんと連絡を取らせていただくようになりました。「鎌倉殿の13人」の発表があって、ご一緒したいとずっと願っていました。あるとき、マネジャーさんから「『鎌倉殿の13人』が決まった」と言われて。ふたを開けてみたら、相手の源頼家役は何度も共演している金子大地くんでしたし、いろんなご縁がつながって導かれた役だったなと思います。

-お話を聞いていると、「らんまん」の物語に重なる気がします。

 そうですね。万太郎さんほど周りを気にせず無我夢中になれるかどうかは別にしても、好きなことで頭がいっぱいになる気持ちはよく分かります。しかも、万太郎さんを東京に送り出したご家族の姿が、自分の家族に重なるんです。この仕事をすることを許し、支えてくれた両親や妹が、私が東京に行くたびに新幹線のホームで「行ってらっしゃい」と見送ってくれた光景を思い出して。

-すてきなお話です。これからの山谷さんのご活躍に期待します。最後に「らんまん」のおゆうさんの見どころを教えてください。

 女性から見てかっこいい女性であり続けられたらいいなと思っています。どちらかというと男性よりも女性から共感を得やすい役だと思うので。一見明るくて朗らかなおゆうさんも、実はつらい過去を抱えているので、悩みがあったり、過去に悔いを残したりしている人の背中を押せるような役だと思います。ぜひ応援していただけたらうれしいです。

(取材・文・写真/井上健一)