大畑佳代役の田村芽実 (C)NHK

 NHKで放送中の連続テレビ小説「らんまん」。“日本の植物分類学の父”牧野富太郎博士をモデルに、愛する植物のため、明治から昭和へと激動の時代をいちずに突き進む主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の波瀾(はらん)万丈な生涯を描く物語だ。東京で研究に打ち込む万太郎は、植物学の雑誌を発行するため、下町の大畑印刷所で印刷の修業中。その大畑印刷所の一人娘・大畑佳代を演じているのが、田村芽実。女優・片桐はいりを研究したというコミカルな演技の裏話や初出演となる朝ドラの印象などを語ってくれた。

-朝ドラ初出演が決まったときの気持ちを聞かせてください。

 お話を聞いたとき、ちょうど駅のホームにいたので、思わずマネジャーさんとハイタッチしてしまいました(笑)。ただ、朝ドラは子どもの頃から家族でずっと見てきましたし、日本で一番有名なドラマだと思っているので、出演が決まったときは、うれしさよりも本当にびっくりしました。

-威勢がよくてコミカルな佳代は、「らんまん」の中では新鮮でとても魅力的です。話し方などは普段の田村さんとだいぶ違うようですが、役作りはどのように?

 普段から役を演じる上では、自分の中で「誰かのコピーは絶対にしない」と決めています。例えば、「あのドラマに出ていたあの俳優のイメージで」というのはコピーになりますけど、何人かの方のお芝居を参考に、その要素を混ぜたものは自分のお芝居になると思っています。だから、自分と役がかけ離れている場合、「幼なじみにこういう子がいたな」、「この作品に出ているこの女優さんのこの要素はこの役に合いそうだな」、「この小説のこの人は印象が似ているな」というものを混ぜて自分の中に落とし込む作業をよくやるんです。今回もそういう作業をしました。

-具体的にはどんなものを参考に?

 台本を読んだら、佳代はすごくチャキチャキした女の子という印象だったので、チャキチャキしている自分の友だちを参考にしました。あと、私は片桐はいりさんのお芝居が大好きで、すてきな女優さんだなと憧れているんです。だから、恐れ多いんですけど、佳代もコミカルな役なので、片桐さんのお芝居を細かく研究しました。片桐さんの動画を何度も再生して、「今のこの感情にいつ切り替わったのか」、「どこで声を発したのか」、「なぜそれをこのコンマ0.1のこのタイミングで発したのか」といった感じで。

-その研究の成果はきちんと発揮されていますね。チャキチャキした江戸っ子を演じる上で、苦労した点はありますか。

 台本を読んでいるときは「どう演じよう?」と悩むことだらけでした。でも、スタジオに入ったら、緻密に作られたセットと、周りの役者さんやスタッフの皆さんの温かな雰囲気の中で、自然と江戸っ子になれた気がします。佳代は、場を引っかき回す役回りですが、印刷所の男性陣の皆さんは「蹴とばしても、殴っても、何をしてもいいから」とおっしゃってくれましたし、カメラマンの方や監督からは「やり過ぎぐらいがちょうどいい」と聞いていたので、本当に自由気ままにやらせていただきました。

-佳代の両親、大畑義平と大畑イチをそれぞれ奥田瑛二さんと鶴田真由さんが演じていますが、お二人と親子の雰囲気もよく出ています。親子感を出すに当たって、何かやり取りはありましたか。

 実は3人ともガーデニングが趣味だったんです。だから、休憩中には鶴田さんと水はけが良くなる土の作り方を話し合ったり、奥田さんと「どちらがたくさんチューリップを咲かせたか」という勝負をしたりしていました。ちなみに、奥田さんは30本、私は50本だったので、私が勝ちました(笑)。そんなふうに、とっても和やかにお話させていただいたおかげで、自然と気分が乗っていき、一緒に楽しくお芝居することができました。ただそれも、お二人が不慣れな私が緊張していることをくみ取って、気を使って話し掛けてくださったんだと思います。

-初登場のとき、仕事の後で汚れていた万太郎に、初対面でいきなり「汚い!」と悪態をついたシーンもコミカルで印象的でした。あのシーンの撮影はいかがでしたか。

 事前に、万太郎に対する気持ちが変化してくるあたりまで台本を頂いたので、できるだけそことの落差を出そうと思っていました。監督からも「大畑家は、わいわいガチャガチャやってほしい」と言われていたので、それも心掛けて。セットも緻密で、実際ににおいがするわけではないんですけど、職人が汗水たらして働いている様子がリアルに感じられたんです。おかげで、作り込んだ「汚い!」ではなく、その場で心の底から出た言葉として言えた気がしています。

-万太郎役の神木さんとのお芝居はいかがでしょうか。

 感情の起伏が激しい佳代を演じる私と「初めまして」でお芝居をしなければいけないので、どう来るか分からない部分もあったと思うんです。でも、私がどんなお芝居をしても、すごく大きな器で受け止めてくださって。今までテレビで拝見していましたが、実際にお芝居をしてみて、そのすごさを肌で感じることができました。

-朝ドラに出演して、ご自身の新たな一面を発見したことはありますか。

 もともと私は、舞台女優を目指していて、少しずつ映像のお仕事を頂くようになったんですけど、今までは「ここにいていいのかな?」という“畑違い”のような気持ちがあったんです。でも、こうして朝ドラの現場で皆さんに温かく迎えていただき、これだけ個性的な役を自由にやらせていただけたことで、一つ脱皮できたような気がしています。おかげで、「自分はどんな女優なりたいんだろう?」と改めて考えるきっかけにもなりました。子どもの頃から、片桐はいりさんや小林聡美さんのような“個性派”と呼ばれる女優さんが好きだったことを思い出し、私もそういう女優になりたいという明確な夢ができました。

-最後に視聴者へのメッセージを。

 今回、朝ドラに参加させていただけたことをとてもうれしく思っています。ただ、自分の中ではまだ落とし込み切れず、ふわふわしている感じです。子どもの頃、朝ご飯を食べながら朝ドラを見ていましたが、朝ドラを見ると「心のラジオ体操」みたいな感じで、1日のスタートがとても晴れやかなものになる印象があるんです。だから皆さんも、ぜひ「らんまん」をご覧になって、毎朝「心のラジオ体操」で心を整え、いい1日を送っていただけたらうれしいです。

(取材・文/井上健一)