鈴木京香  撮影:渡部伸 鈴木京香  撮影:渡部伸

美術、映画、小説や詩作、戯曲など幅広い芸術分野で活躍した、不世出の天才ジャン・コクトーの筆によるモノローグ劇『声』。時に哀しげに、時に激しく、別れた恋人に延々と電話で訴えかける女の独白で綴られた戯曲は、世界各国の女優を魅了し、これまでも数多く上演されてきた。そこへ新たに挑戦するのが主演・鈴木京香×演出・三谷幸喜だ。

舞台『声』チケット情報

「「やりたい!」 というより「やるべきだ」というのが、お話をいただき、戯曲を読んで最初に考えたこと。私は舞台から「私だけを見て!」というほど主張するタイプでも、情熱的でもありませんから(苦笑)。けれど、女性の心理をリアルかつ情感たっぷりに描くコクトーの戯曲は魅力的でしたし、何より初舞台『巌流島』をはじめ、多くの作品でお世話になってきた三谷幸喜さんが演出をしてくださる。女優生活25周年の節目に、こんな好機に恵まれた私は幸せですよね」

6月頃から本読みを重ね、解釈をめぐる意見を交換するような稽古を月に数回行っているという。

「稽古場にいるのは三谷さんと私、あとは数人のスタッフさんだけ。そんな環境にも慣れてきましたが、全員の視線が私に集まっていたりして、最初は居たたまれませんでした。三谷さんは私の苦手なこと、できないことを熟知していらっしゃる。そのうえで、この作品で一緒にチャレンジしてみたいことを提案してくださっているのだと思います。私はといえば、まな板の上の鯉というより、元気だけは良くて落ちそうになっている魚、という感じでしょうか(笑)。そろそろ覚悟を決め、みっともないところも全部見せるつもりで稽古に集中していかなければと思っています」

稽古が始まってから、演じる女性のイメージも随分変わったとか。

「はじめは、別れた恋人に自殺をほのめかすような寂しくてエキセントリックな女性だと思っていましたが、三谷さんとお稽古するうちイメージが変わってきたんです。彼の前で不意に感情が昂ぶったり、取り繕ったり、ちょっと嫌味を言ってみたり。場面ごとの彼女の言動を取り出してみると、どんな女性にも覚えのあること。それをきちんと表現していけば、三谷さんの作品に登場しても不思議のないチャーミングな女性になる、と。そのイメージを深め、体現することがこれからの課題でしょうか」

ひとり芝居の高いハードルを越えた先には、別の「希望」も見えている。

「大きなチャレンジですが、何せ出演者は私ひとり。この公演をきちんとやり遂げられたら、また時間を置いて、年を重ねた私なりの『声』も演じてみたいし、色々な街の小さな劇場にも持って行きたい。クリスマス・シーズンの定番なんて素敵じゃないですか。故郷・仙台もこの時期は街中がイルミネーションで彩られ、とてもキレイなんです。いつか持っていけたらいいですね」

公演は12月18日(水)から26日(木)まで東京・スパイラルホールにて。チケットの一般発売は11月16日(土)午前10時より。

取材・文/尾上そら