『四十九日のレシピ』に出演した永作博美

「四十九日は盛大な大宴会を」との言葉を遺して逝った母。その願いを叶えるべく奔走する中で、新たな一歩を踏み出していく人々を描いた『四十九日のレシピ』。永作博美は不妊治療に疲れ、挙句に夫が愛人を妊娠させ、離婚届と指輪を置いて実家に戻る主人公・百合子を演じた。

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「自分の荷物や大事なことについてではなく、残された人たちで楽しく宴会をと書き残す。その配慮がなんて素敵な遺言だろうと思い、この素敵な会をぜひ開きたいと思った」と本作に惹かれた理由を明かす永作。

求められたのは“静”の演技。大声で怒鳴る父(石橋蓮司)、無邪気なイモ(二階堂ふみ)、陽気な日系ブラジル人のハル(岡田将生)に囲まれ、自分から動くのではなく相手に反応する中で「少しずつ見えない鎧が溶けていく」さまを見せなくてはならず、少しばかりの不安を胸に現場に入った。「最初は、アクションがあるわけでもないのに徐々に変わっていくのは難しいなと思ってたんです。でも、思った以上に岡田くんとふみちゃんの天使っぷり――私は堕天使だと思ってますが(笑)――のレベルが高く、そこにいるだけで心が溶かされていきましたね」。

頑固な父親役の石橋とは初共演。タナダユキ監督は2人の父娘共演を熱望したというが「(2人が並んだチラシを手に)似てるんじゃないですかね? しっくりきますよね」と笑う。「やはりお父さんがしっかり立っててくれたので、正面からぶつかっていけましたね。映画の中でのお父さんは百合子にしてみたらイライラさせられますが、蓮司さんは本当にお茶目。現場スタッフを笑かしているかと思えば難しそうな顔して台本を熟読してたり、ステキでした」。

亡き母の素顔を知ることで百合子は心の空白を埋めていく。永作自身、結婚、出産を経験し「やっとこの年になって、親の苦労やありがたみが本当の意味で分かってきた」とも。「若い頃は『一人で生きていける』くらいのことを言ってましたが当然、そんなはずもなく(苦笑)。自分が子育てをしてこんなに大変なんだと思うところもあり、なおさら感じます」。

今年43歳。ようやく人生の折り返し地点といったところだが、女優としてひとりの女性として充実の時を過ごしている。「『ああ楽しかった』と言って死ねたらいいですが…そのためにも“その日暮らし”と言いますか、目の前の一日を充実させていくことが大事だなと。苦労して結果を出すのも好きなので、そうやって生きていけば充実した死に際を迎えられるのではと思ってます」。

『四十九日のレシピ』
公開中

取材・文・写真:黒豆直樹