【書評】ミステリーの名手、法月綸太郎からのXマスプレゼント

2011.12.24 6:00

作者と同姓同名の名探偵・法月綸太郎が活躍するシリーズの最新刊で、長篇作品としては2004年の『生首に聞いてみろ』以来7年ぶり、1冊丸ごとの法月ものとしても3年ぶりとなるファン待望作の書評です。

 法月綸太郎『キングを探せ』が講談社から書き下ろしで刊行された。作者と同姓同名の名探偵・法月綸太郎が活躍するシリーズの最新刊で、長篇作品としては2004年の『生首に聞いてみろ』以来7年ぶり、1冊丸ごとの法月ものの短篇集『犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題』が出てからも3年ぶり(法月さん、『2』も待ってるよ)だから、これは期待しないほうが嘘というものである。




  

 法月綸太郎
 講談社
 1,680円









 ミステリー・ファンには何を今さら、と言われるかもしれないが、それ以外の読者のためにかいつまんでシリーズを紹介しておく。主人公の法月綸太郎はミステリー作家だが、たぐいまれな推理能力の持ち主でもある。現職の警察官で警視の地位にある父親にそれを見込まれ、難事件が起きるたびに非公式の補佐役として父親とともに解決のために働くのである。この関係はアメリカの作家・エラリー・クイーンが生んだ名探偵エラリー・クイーンと父リチャード警視の関係の本歌取りだ。法月綸太郎(作家のほう)は熱心なクイーン・ファンでもあるのだ。ちなみに本家エラリー・クイーンは、フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーといういとこ同士の2人による合作名だが、日本の法月綸太郎は1人である。たぶん。
 ノンシリーズの長篇『密閉教室』で1989年に作家デビューを果たした法月は、第2作で同姓同名の主人公が活躍する長篇『雪密室』を発表した。これは法月父子の過去にも絡む事件を描いたもので、小ぶりによくまとまった好篇である。次の『誰彼』が質量ともに大作と呼ぶにふさわしい傑作で、この作品を発表した1990年には日本の謎解きミステリー好きの間で法月綸太郎の人気は不動のものとなった。法月は短篇の名手でもあり、1992年の『法月綸太郎の冒険』を初めとする好短篇集をいくつも発表している。2002年に発表した『法月綸太郎の功績』に収録された「都市伝説パズル」では、第55回日本推理作家協会賞を短篇部門で獲得した。

 その法月綸太郎の新作である。これは期待しないほうが嘘、というミステリー・ファンの気持ち、わかっていただけるだろうか。しかもクイーン・マニアの著者が〈キング〉と題した作品を書くという茶目っ気。何を仕掛けてくるのか、という気持ちにもなろうというものじゃありませんか。

 「共犯者たち」と題された不穏な章から話は始まる。ついでに書いてしまえば、全体は4部構成、13の章で構成されている。何を模しているのかは自明だろう。
 登場するのは4人の匿名の人物だ。カラオケボックスに集合した彼らは、完全犯罪の成功を期して結団式に臨んだのである。カードを引き、順番とターゲットを決める。何か。交換殺人の、だ。
 これもミステリー・ファンにはわかりきったことだが書いておく。交換殺人とは、殺したい相手がいるAとBが標的を交換して犯行に臨むものだ。犯行時間にはもちろん、それぞれがアリバイを作っておく。その工作によって自身を安全圏に置くのである。この犯罪計画は、ABの間につながりがないほうが望ましい。警察から見て、共謀の可能性を疑われないにこしたことはないからだ。だから「共犯者たち」の4人も、会うのはこれで最後なのである。カードを引いた結果「りさぴょん」と呼ばれる人物が最初の実行犯となる順番を引き当てる。
 こうして殺人連鎖の幕が切って落とされる。法月父子が登場するのは第7章で、それまでの章で作者は丹念に犯人側の動きを追っていく。第1の殺人が起き、続いて次の犠牲者が出る。その中では不測の事態も生じ、実行者たちは気を緩めることができない。あることに対応するために犯人たちの1人が動いたところで一旦幕が下り、捜査側の登場人物の出番となるわけである。

 過去の法月綸太郎シリーズと比して、サスペンスの醸し方に特徴のある作品だ。前半部には、淡々と進んでいく犯罪をはめ殺しの窓越しに眺めているような緊張感がある。すぐそこで悪事が進行しているのに、手を出すことができない。犯罪者たちの動きが手に取るように伝わってくる。第7章で法月父子が登場してきたときには、読者のほうが彼らよりも情報を持っているために、それが探偵たちに伝わらないことにもどかしい感じを覚えるのである。読者と登場人物の間のこの絶妙な距離感が、本書における最大のギミックなのである。何一つ現実から離れたことは描かれていないが、小説の雰囲気には現実ばなれしたところがある。未来の出来事は判っているのに何もすることができず惨劇が訪れてしまう。そんな悪夢を見ているようだ。
 もう1つのポイントは、現代型に磨き上げられた交換殺人が描かれていることである。20年前ならいざ知らず、現代において交換殺人は決して絵空事ではない。ネット上で知り合った同士が自殺を企てたり、闇サイトから毒物を購入したりすることができる時代である。交換殺人などは、2ちゃんねる住人同士のオフ会のようなもので、その気があれば企てることは誰にもできるはずだ。そうした時代に対応するためには、AとBの標的交換という作為を描いただけでは作品として不足である。では何を法月は付加したのか、という趣向を見抜くのは読者の役目だ。名前はわからないものの犯人たちの存在は最初からわかっているのだから、その趣向こそが最大の謎なのである。

 精巧に作られた手品のタネを思わせる作品だ。この精密さを愛する人には、たまらない読み物になるはずである。素敵なクリスマスプレゼントをどうもありがとう。今度はバレンタインぐらい? それとも来年のクリスマス? 欲張りな読者は次の贈り物にも期待しています。

すぎえ・まつこい 1968年、東京都生まれ。前世紀最後の10年間に商業原稿を書き始め、今世紀最初の10年間に専業となる。書籍に関するレビューを中心としてライター活動中。連載中の媒体に、「ミステリマガジン」「週刊SPA!」「本の雑誌」「ミステリーズ!」などなど。もっとも多くレビューを書くジャンルはミステリーですが、ノンフィクションだろうが実用書だろうがなんでも読みます。本以外に関心があるものは格闘技と巨大建築と地下、そして東方Project。ブログ「杉江松恋は反省しる!

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