外山文治監督

近年もTVドラマに映画に活躍が続く吉行和子主演の映画『燦燦-さんさん-』。77歳で婚活を始めた老女をヒロインにした本作は、現代の高齢者たちの悲喜こもごもを生き生きと描いている。実は意外なことに、この物語を作り上げたのはまだ30代前半、今回が長編デビュー作となる外山文治監督だ。

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なぜ、自身より倍以上も年齢の離れた高齢者を題材にしたのか? 聞くと外山監督自身のひとつの挑戦があったそうだ。「同世代を描くことより、自分の知らない世界を題材に、ひとつの物語を作り上げてみたい気持ちがいつからか芽生えました。まっさらな状態から何かひとつのものを生み出す、真の意味での創作を一度きちんとやろうと。それは映画監督に課せられたことでもあると自分では思うんです。そこで思い浮かんだのが高齢者の恋愛物語で、実際に取材してみるとこれが驚くことばかり。自分の中にある“高齢者像”がことごとく覆された。そのとき、今を生きるシニア世代をきちんと描きたいと思ったんです」。

こうした過程を経て今回の脚本が完成。もう一度自分の人生を“燦燦”と輝かせたいと77歳にして結婚相談所の門を叩いたたゑの恋の行方がコミカルに描かれる。「実はこの作品の前に作った短編映画『此の岸のこと』では老老介護や無縁社会といった高齢者たちに忍び寄る影に焦点を当て、人生の晩年における厳しい現実を描きました。対して今回の作品はいわば合わせ鏡で、今のシニア世代の光を見つめたもの。好奇心旺盛で恋もする今のシニア世代を主人公に、希望を見い出せるストーリーにしたいと思いました」。

とはいえ、まだ若い自分が作り上げたものが今のシニアに届くのか不安はなかったのだろうか?「はじめは不安でした。でも、実は今回の主要キャスト、吉行和子さん、宝田明さん、山本學さんはいずれも私の理想のキャスティングで、周囲からは無謀と言われたんですけど、ダメもとで脚本を送らせていただいたら、三者全員から出演への前向きなお返事をいただけたんです。これが自信になりました」。

その3人の日本を代表する俳優との仕事は宝物になったそうだ。「遠慮は一切しないと心に決めて現場には挑みました。それをお三方ともむしろ喜んでくださって、作品についてとことん意見を交わし、話し合えた。これは今後の私にとって大きな財産になると思います」。今後の飛躍が望まれる新人監督が大ベテラン俳優3人と作り上げた意欲作に期待してほしい。

『燦燦-さんさん-』
11月16日(土)よりヒューマントラスト有楽町、ユナイテッド・シネマ浦和ほか全国順次公開

取材・文・写真:水上賢治