斎藤監督が『なにもこわいことはない』に込めた思い

2013.11.14 14:35配信
斎藤久志監督

中田秀夫監督の『カオス』や廣木隆一監督の『M〈エム〉』の脚本家である一方で、『サンデイドライブ』『いたいふたり』など寡作ながら独自の世界観ある作品を発表し続けている斎藤久志監督。新作『なにもこわいことはない』は、実に7年ぶりに届いた1作だ。

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この作品を言葉で表現するのはなかなか難しい。しいて言うと“感じとる映画”とでも言えばいいだろうか。恵理と史也というひと組の夫婦の過ごす日常に、ただただ観客は身を委ねることになる。斎藤監督はこう明かす。「自分の身の周りで映画のようなドラマチックなことが起きることはそうない。でも、映画となると、山場や劇的なシーンを作りがち。デフォルメされた感情ではなく、ささやかな心の揺らぎだってじっくり見つめればドラマチックだと思う。今回は、それに対するひとつのチャレンジ。極論を言うと何も起きない、言うなれば何の変哲もないリアルな日常で構成されたドラマを目指しました」。

この監督の言葉通り、本作では状況を一変させるようなフックとなる最愛の人の死といったことは起きない。朝起きてごはんを食べ、それぞれ仕事に向かい、夜帰宅して眠りにおちる。そんな夫婦のありふれた営みのシーンが丹念に積み重ねられていく。でも、その二人の日常のやりとりにじっくりと視線を注いだとき、心境の変化やふとした瞬間訪れる心のズレなどが感じとれ、実は刻一刻と変化する夫婦の感情と関係性、そして彼らが歩んできた人生までもが滲む。斎藤監督は「登場人物の人生を2時間前後の中で全て見せられない。だけど2時間前後しかその人の人生がなかったわけではない。映ってない時間にもこの人は生きていたということを感じさせたい。何気ない日常の積み重ねから人生を相対化できないかと思いました。僕が映画に求めるものは物語の強さよりも、その瞬間の本物の感情だったり、言葉で括れないものなんです。この作品もそういった形になっていてくれたらうれしい」と語る。

「映画館で上映している作品の具体例は脚本にはなかったんですけど、撮影が石井勳さんで助監督が石井晋一だったんで、そのふたりがやっていた『三月のライオン』がいいかなと。監督の矢崎仁司さんにお願いしたら快諾してくれて。実は僕も仕上げをちょっと手伝った作品で。そうしたら何か微妙に中身がリンクしていて。偶然なんですけどね」と斎藤監督。自主制作で挑んだ意欲作に注目したい。

『なにもこわいことはない』
11月16日(土)よりユーロスペース、12月14日(土)より新宿K's cinemaにて公開

取材・文・写真:水上賢治

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