キャラメルボックス『ウルトラマリンブルー・クリスマス』 撮影:伊東和則 キャラメルボックス『ウルトラマリンブルー・クリスマス』 撮影:伊東和則

毎年恒例、演劇集団キャラメルボックスのクリスマスツアー『ウルトラマリンブルー・クリスマス』が11月17日、兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて初日を迎えた。

脚本・演出の成井豊が、1946年公開の名作映画『素晴らしき哉、人生!』へのオマージュ作品として書き下ろした新作。同作のエッセンスはそのままに、舞台を昭和の日本に置き換えて心温まる物語を紡ぎ出す。

昭和58年、クリスマスイブの夜。建設会社を営む辺見鐘司は、気がつくと、知らない人物と一緒にバスに乗っていた。バスを降りたところは、天国のひとつ手前の停留所。その人物は天使で、辺見の自殺を止めようとして川に落ち、死ぬ運命ではなかった辺見を死なせてしまったと言う。地上に戻そうとする天使に対し、このまま天国へ行きたいと拒む辺見。なぜ死にたいのか、天使は辺見の話に納得できたら天国行きのバスに乗せると約束。辺見はその半生について語り出す……。2階建てのセットで、天使が過去の辺見を優しく見守る形で物語が展開していく。

ホッと和ませてくれる笑いと緊張感のあるスピーディーな展開で緩急をつけながら、心温まる作品へと仕上げる、クリスマスにピッタリの物語。舞台装置はシンプルながらも、時代を感じさせるセリフや歌、衣装で、どこか懐かしい雰囲気を感じさせる。

温厚篤実な青年で、自分の夢や楽しみは二の次に、いつも人のために生きてきた辺見を演じるのは、阿部丈二。まっすぐな好青年を豊かな感情表現で好演している。そんな辺見が窮地に立たされたときの抑えきれない感情、悔しさを滲ませて自暴自棄になる姿には胸がグッと締めつけられる。また、実川貴美子演じる妻・碧との出会いや温かい家庭を築いていく様には、その時代ならではの慎ましい雰囲気が漂う。辺見が“たくさんの人を幸せにしてきた”事実を天使に見せられていくシーンには、自分の家族、友人、関わってきた人たちのことが蘇り、自身を重ね合わせずにはいられなくなるだろう。そしてどん底から一転、周りの人たちから支えられ、希望に満ちあふれた辺見の笑顔に、観る側も自然と笑みがこぼれる。人間は支え合い、生きていることを改めて感じさせてくれる作品だ。

今回は、日替わりで2パターンのラストシーンを用意。初日は多田直人演じる天使プロキオンバージョンを展開した。渡邊安理演じる天使シリウスバージョンとの違いを楽しむのもオススメです。兵庫公演は11月24日(日)まで。その後、12月5日(木)から25日(水)まで東京・サンシャイン劇場でも公演。

取材・文:黒石悦子